1426576 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

HANNAのファンタジー気分

HANNAのファンタジー気分

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
March 18, 2013
XML
カテゴリ:カテゴリ未分類
 “登場人物の態度・セリフが男前”“生き方を考えさせられる”・・・と、息子の高校の「図書便り」に図書委員の熱烈なレビューが載っていたので、『黄金の王 白銀の王』読んでみました。

 古代日本に似た大陸文化圏の辺境の島国を舞台にした、中世・近世日本の武士道精神に似た社会をえがく、架空の歴史小説。
 文体は違うけれど、司馬遼太郎や井上靖の歴史物、あるいは中国(や日本)の歴史書(『史記』みたいな)を思い起こさせます。つまり、史実を正確に記録しつつ、歴史に翻弄される個人の生きざまをたんたんと描いています。もっとも、この場合は架空の史実ですけど。

 ただし、この架空の世界はかなりシンプルです。もしかするとヤングアダルト向けという意識で書かれた?ためかもしれません。舞台となる島国は古代日本よりもっと孤立した、もっと単一な民族であり、王の家系と統一の歴史は古代天皇家のそれよりずっと単純。二分した王家が争う構図は南北朝のようでもありますが、貴族と武士の違いもないし(作者自身も説明していますが)宗教勢力もない。
 ・・・いえ、シンプルなことをとがめだてするつもりはありません。善と悪、光と闇などの二元的な抗争をシンプルに追求する物語は、そのシンプルさ、純粋さゆえに鮮烈で印象的・象徴的で、混沌・雑然・複雑怪奇な現実世界ではつい見逃されてしまう物事の本質を、鋭くあばきだす・・・そんな長所がファンタジーにはあったりします。

 この物語も、シンプルな構図の中で、大局的に歴史や政治を見ることや、武士道的な生きざま、人としての道、みたいなものを徹底的に追求していて、分かりやすく、感動的です。
 抗争する片方の王家の頭領「薫衣(くのえ)」は、物語の初めで敵方に捕らえられてから、「どのように頭領らしくふるまって死ぬか」を考えます。勝った方の頭領「穭(ひづち)」が争いをやめ分かれた血筋をひとつに戻す提案をしたので、薫衣はいわゆる政略結婚で彼の義弟になり生き延びますが、自分の家系の頭領という「名」を捨てて国家統一と平和という「実」をとる決意をしたために、誇りをうちくだかれ、精神的につらい日々を送ります。
 歴史の結果としては、穭のもくろみ通り王家は一つになるのですが、薫衣の人生の結果としては、最後に彼はやはり自分の家系の頭領として処刑される道を選ぶ・・・まさに、「武士道といふは死ぬ事と見つけたり」(葉隠)です。
 二人の頭領の心の動きが非常に丁寧にくり返し解説されていて、それぞれの葛藤や苦しみがよくわかり、それだけに大局を動かすために犠牲にならざるを得ない個人の悲劇が伝わってきます。

 ですが、それがあまりにも前面に押し出されているために、異世界モノとして重要なはずの、異世界じたいの実在感が欠けているように思われます。設定がシンプルなだけに、存在感・本当らしさを訴える魅力的な何かが欲しいのです。
 さらに、主人公たちの乗り越える、非常に現実めいたあれこれ(政治的・外交的駆け引きとか社会的影響とか)が読者をひきつける割には、前後の歴史設定があっけなさすぎはしないでしょうか。たとえば、主人公たちのわずか数代あとには2つの家系の対立は解消された、と告げて物語は終わりますが、その一言で本当に済むのでしょうか。主人公たちの葛藤をみてきた限りでは、また数代後にはささいなことから同じような対立が始まっていそうな気がするのですが。
 二人の主人公がこんなに苦しんだおかげで、歴史の流れが変わり平和が訪れた・・・というよりも、

  「この世の時の流れをすべて支配するのがわしらの役目ではない。わしらの役目はわしらの置かれた時代にわしらのよく知る田野の悪を根絶する力を貸すべく能力を果すことであり、そうしてこそ後代に生きる者たちがきれいになった土地で耕作ができようというものじゃ。その時の天気までは責任が持てぬが。」――トールキン「指輪物語」『王の帰還』

 というガンダルフのセリフの方に、なるほどと納得できるような気がするのです。(「指輪物語」の二元対立は世界の善悪の対立であり、『黄金の王 白銀の王』に描かれる対立とは違いますが)

 つまり、この物語は分かりやすくつくられた架空世界の架空歴史小説ではありますが、ファンタジーとはいえないような気がします。もちろん、ファンタジーの定義にもいろいろあって、架空の世界や歴史が展開すればそれだけでファンタジーだとする向きもあるでしょう。
 しかし、私としてはやはり、異世界ならではの驚きを伴う神秘的な体験とか、現実とは違った新鮮なものの見方が描かれているのが本当のファンタジーだと思います。
 それから、もっと重要なのは、トールキンの論ずるところの「幸せな大詰め」(たとえ悲劇的であっても、最後に読者をも浄化するような天啓のような感動があること)などを持つこと。この物語にはそういうものはなく、乱暴に言えば、現実の歴史ドラマと同じようなレベルで最後までたんたんと予想通り進んでいきます。家族みんなで楽しめるTVの大河ドラマ時代劇みたいですね。
 ・・・それはそれでいいんですけど・・・

 「ああ! そうだったのか」と目からウロコの感動で胸がすっとする、そういう体験ができるような何かが織り込まれていれば、この本はもっと私好みな物語なのに、と思うのでした。

 
 






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  March 21, 2013 12:49:49 AM
コメント(0) | コメントを書く



© Rakuten Group, Inc.
X