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HANNAのファンタジー気分

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April 10, 2013
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 第2巻のラストで両親と再会し、さていよいよ悪者をやっつけてすべてに始末をつける最終巻『ライオンボーイ3 カリブの決闘』(原題 The Truth)。天野喜孝の表紙絵もますますにぎやかに、オールスター勢揃いといった感じです。

 冒頭、主人公チャーリーに悩みはないように読者には思えます。これまではとにかく、連れ去られた両親を捜し求め、追っ手に追われながらただ一人旅を続けてきましたが、もう安心。強くて賢い父母が守ってくれるし、悪徳企業「コーポラシー」に戦いをいどむことも、両親に任せておけばよいはず。
 けれど、危険だから部屋から出るなと言われ、じきにチャーリーは不満をいだきます。このあたりが、12歳というチャーリーの微妙な年齢にふさわしくて共感できます。大人になろうとし始めたこの頃の子どもにとって、両親は居なければ寂しいし、居たら居たでうっとうしい。愛情はほしいけれど、束縛はされたくない。

 言いかえると、両親と再会したからといって今までに獲得した生き方をすっかりやめたりできないところが、チャーリーの健全な成長なのでしょう。かくして両親が忙しい間、彼は彼でネコのセルゲイやカメレオンのニヌーと独自に語り合おうとします。そうして、今度は彼自身が誘拐されてしまいます。

 今まで誘拐された両親を追っていたのが、立場逆転です。この対になった構図もよいですね。チャーリーがほぼ単独で両親を追ったのに対し、今度彼を追いかけるのは両親のほか、これまでに彼がつくった友人たち――ライオンたち、型破りなボリス王などバラエティにとんだ顔ぶれです。そして舞台は、コーポラシー社の本拠地であるカリブ海の孤島にうつり、チャーリーをはじめ、とらわれの人々と動物たちのスペクタクルな大脱走へと盛り上がっていきます。

 脱走計画でも、チャーリーは父親と対立します。とりあえず自分たちだけ脱出しよう、それ以上は無理だと言う父に対し、チャーリーは

 「だって、ぼくにはここでの責任があるもの」――ジズー・コーダー『ライオンボーイ3』枝廣淳子訳

と言い放ち、コーポラシー社のとりこになっているすべての人間と動物の解放を主張してゆずりません。なかなか、かっこいいです。このように父に立ち向かうとき、男の子は自立するのですね。

 結局、不可能に思えた全員脱出は大成功するばかりか、神経を麻痺させる空気が断たれたことによってコーポラシー側の人間も解放されます。あやしい空気がなくなってみると、コーポラシーの社長までもが夢から覚めたようになり、根っからの悪人ではなかったかのようです。
 よくある善悪二元対立でなく、悪者は自ら作り出した社会悪に自分もはまっていただけというのが、物語を現代的にしていると思います。前にも書きましたが、このシリーズは古典的ファンタジーの良さと、現代的な要素とがバランス良く取り入れられています。

 こんなふうに、たいへん良くできた物語だと思うのですが、気になった点が二つばかり。
 一つは、すべての“言語”を瞬時に理解してしまう、生きた自動翻訳機カメレオンのニヌー。彼ほど無敵な助っ人はいないでしょう。よくぞコーポラシー社が今までニヌーを見つけていなかったものです。チャーリーがやりとげたすべてのことは、実はニヌーの手柄なのです。コンピューターの言語まで読みとってしまうなんて、ちょっとできすぎな気がします。

 もう一つは、そもそもチャーリーの両親を拉致しチャーリーをも追い回していた青年ラフィですが、実は彼のいとこでした。そしてもう一人の敵マッコーモの女友達のトラ使いが、実は音信不通だったチャーリーの伯母でラフィの実母だったのです。この手の、後から明かされる登場人物の関連づけは、面白いのですが、よほどうまくやらないと、作品世界をせまくしてしまう感じがぬぐえません。
 作者の母娘は、たぶんラフィをただの悪者に終わらせず更生してほしいとの願いをもってこのような設定にしたのでしょう。しかし、あの人もこの人も実は知り合いでした、親戚でした、というのは本当に必要だったのかしら? ラフィの更生については何か他の方法で示唆してもいいんじゃないかなあ、と老婆心ながら思いました。
 
 





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Last updated  April 10, 2013 11:56:58 PM
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