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カテゴリ:Hannaの創作
つづきです;
* * * おじいちゃんのおそうしきがすんで、何日かたった。あした帰るという日、ぼくはなにげなくにわをのぞいて、びっくりした。 便所守(べんじょのかみ)がいる。便所のうらてで、長いえのついたひしゃくをもち、バケツになにかくんで入れている。あれは、ぼくやおばあちゃん、ママ、しんせきの人たちが、たべて、出したものだ。くさいだろうな。きたないだろうな。 便所守はやがて、バケツをさげて畑のほうへ行ってしまった。すぐ見えなくなったけれど、またもどってきて、何度もくんでいる。おじいちゃんのかわりに畑にこやしをやっているんだ、とぼくは思った。くさいのも、きたないのもかまわずに… 夏がきた。夏休みになるとすぐ、ぼくはおじいちゃんちに行った。 「♪おじいちゃんち だぁーいすき! おいしいトウキビ できたかな」 車の中でぼくが歌うと、ママが言った。 「…おじいちゃんがなくなったからね、あのお家も、なくなるかもよ」 「えーっ、じゃあ、おばあちゃんは?」 「おばあちゃんは、うちのちかくに小さいお家を買って住もうかって」 「わー、まいにちおこづかいもらうぞ!」 ぼくはよろこんだあと、はっと思った。 「ねえ、じゃトウキビは?」 そしてあの便所守は? トウキビにこやしをやっていた、便所守のすがたが目にうかんだ。 「ことしでさいごになるわねえ、あのおいしいトウキビも、やさいも」 ガーン。ぼくはしばらくだまりこんでしまった。…すぐ便所守にしらせなくっちゃ。 その夏たべたトウキビは、歯にきゅうっとしみこむほどおいしかった。これも便所守のおかげだ。便所守は、ぼくが便所に行くとちゃんといて、いいことをおしえてくれた。 「いちばんりっぱなトウキビをのこしといて、秋にむらさき色になったらもってかえり。春になったら、たねをまくんや」 そして、またとくいそうにつけくわえた。 「たねからトウキビがはえて、トウキビにたねがなる。ええか、みんな…」 「みんなぐるぐるまわっとるんや」 ぼくが便所守の口まねをして言うと、便所守は茶色いかおをくちゃっとゆがめて、まんぞくそうにうなずいた。 おじいちゃんちがなくなったら、どこかにひっこすのかときいてみた。でも便所守は、ないしょじゃ、と言うだけだった。 だが、なぞはやがてとけた。 秋、むらさきにじゅくしたトウキビの実を、ぼくは家にもってかえった。そうして、つぎの年の春、特大のうえきばちにたねをまいた。 その夜、ぼくはトイレに入ってびっくりした。便所守が、なんとトレーニングシャツすがたで、ちょこんとすわっている! 「どや、わしのニュールック?」 ウインクして、にたーっとわらうそのかおは、ちっともかわっていない。 「かっこええ水洗トイレにあわせて、わしもイメ・チェンしたんじゃ。よろしゅうな」 「わあ、よろしく、便所守!」 「ダイスケくん。その便所守っちゅうのは、かえたいんや。ひっこしたし、イメ・チェンもしたし、どや、ここでひとつ、トイレマン、というんは?」 ぼくはぷっとふきだした。 「トイレマン? ぜんぜんにあってないよ!」 しまった。またしつれいなことを言っちゃった。ぼくはあわててつけたした。 「トイレマンじゃやすっぽいからさ、せめて、『便所の神さま』で、どう?」 おわり * * * あとがき。出版されました『天までひびけ! ぼくの太鼓』と同じく、「おじいちゃん」のお話です。こちらの方ができたのは先で、モデルは私自身の祖父です。祖父は昭和天皇と同じ年の生まれで、1975年5月に亡くなりました。 戸建ての「おじいちゃんち」の庭は、団地住まいの幼い私の目には広大な土地に思えました。しかし別に農業をしていたわけではなく、たぶん戦中戦後の食糧難の頃からの習慣で、自宅で食べるぶんの野菜を育てていたのでしょう。 生け垣の下の暗がり、くみ取り便所、古井戸、ゴミ焼き穴、ウラのお風呂のたき付け口など、現在ではあまりなくなってしまった“秘密めいたちょっと怖い場所”が、「おじいちゃんち」にはありました。身近にそういうファンタジーめいた雰囲気の場所があったことを、今ではなつかしく思い出します。 そして、自分の執筆動機というのは、結局のところ「生と死」なんだなあ、と気づきました。生と死こそは、この世でもっとも古く普遍的な神秘であるからなんでしょうね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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