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HANNAのファンタジー気分

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May 26, 2013
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 友人Kimさんの手紙に「ファンタジーみたい」と紹介されていた藤枝静男「田紳有楽」を、図書館で借りてみました。
 全然知らない作家だったので、とりあえず裏表紙の説明を見ると「私小説」とあって、うーん、このジャンルは私には縁遠く分かりづらい・・・「自分の体験談を主観的に語る」だけなんじゃないの? みたいな理解しかしていませんでした。

 しかし読み始めてみると、これはメッポウ楽しいお話でした。

 もったいぶった語り口で、ナンセンスな理屈をこねまわしつつ、卑近な話を形而上学的に、非日常的逸話を日常的に語るその手際のよさは、児童文学で言うとルイス・キャロルや、(私がひそかに和製ルイス・キャロルともくする)舟崎克彦「ぽっぺん先生シリーズ」に通じる、人を食った感じがしました。

 骨董屋の老人と、彼が入手した焼き物「美濃のグイ呑み」、「朝鮮生まれの柿の蔕(へた)」と呼ばれる茶碗、「丹波」と呼ばれるどんぶり鉢とが主人公で、かわるがわる一人称で語ります。そう、骨董品としてハクをつけるため?に池の泥に沈めてある器物たちも、一人前に自分の来歴だの心情だの野望だのを語るのです。
 これって、使いこんで命が宿った道具(ツクモ神=付喪神、九十九神)で、百鬼夜行の絵巻物とか、「しゃばけ」シリーズとか、昔も今も日本人の大好きなモチーフではありませんか。

 しかも彼らは一流の名品ではなく、生活臭い人の手から手に渡って来たモノたちで、それゆえに“いい味”を醸し出しています。
 まずグイ呑みが金魚と恋に落ちて子どもを産ませ、次に、実は産地に関してはニセモノである茶碗と丼がどちらも「滓見(かすみ)」と名乗りますが、それもまた偽名で、本当の「滓見(サイケン)」は、チベットのラマ僧だった。
 作者の本名は「勝見」という姓だそうで、「滓見」はそのもじり、「滓」という一種自虐的な文字だけれど「霞」と音が一緒なので何だか夢幻的でもあり、大陸風に「サイケン」と読めば「再見(=さようなら、See You Again)」にも通じて、輪廻転生的でもあるのです。

 しかしサイケンもまたニセの僧だったり、それが日本に流れてきて水底の妖怪になったり、かと思うと器たちの持ち主もまっとうな骨董屋ではないどころか、実はなんとこっそりと人界に降りてきた弥勒菩薩だった、などという気宇壮大な展開。

 タニシの子を、グイ呑みと金魚の合いの子と思いこんで

  「生無生間誕生の新創造物を大量に生産放出するという宇宙的大事業を敢行」
  「何という未来の明るさ」
  「万物流転生滅同根、山川草木悉皆成仏」  ――藤枝静男「田紳有楽」

 と盛り上がったり、丼鉢の胴体から脚を生やしたり空を飛んだり、弥勒菩薩出現を待つためいかにして長らえようかとたくらんだり、器物妖怪たちの日々は聖俗併せのんで、ふところが深く、楽観的です。

 弥勒菩薩たる骨董屋も、真の生誕(シャカ入滅から56億7千万年後)が待ちきれずに下界にやってきたものの、すっかり俗世にまみれた老人となり、声はかれるし体はかゆいし・・・、総じて親しみやすくなってしまっています。このあたり、趣向はまったくちがうレベルですが近頃はやりの『聖☆おにいさん』(中村光のコミックス)を思い出してしまいました。

 後半には弥勒だけでなくお地蔵さまや、妙見菩薩、大黒天などが集まってきて、器物妖怪たちとともに笛や太鼓、舞えや歌えやの大合奏・合唱大会となって終わります。大団円というか、ハレルヤというか、はたまた西欧ファンタジー風に言うとフェアリーライド(妖精たちの大行進)のようでもあります。

 世の中の暗い話題も、来し方行く末の感傷も、生物も無生物も、善も悪も、ひっくるめた明るい欣求浄土の“歓喜の歌”、ファンタジーの本質をついていていいですねえ。どんな音楽?かは、ネタバレになるので書き写しませんが、このお話、映画とかアニメとかコミックスとか音楽とか、とにかく視聴覚化する勇気のある人がいないかしら、あったら見てみたい、聞いてみたい!とせつに思います。





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Last updated  May 28, 2013 12:08:15 AM
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