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テーマ:短編小説を書こう!(490)
カテゴリ:Hannaの創作
むかしの即興的散文をふと思いだし、手直ししてみました。初回の舞台は改装前のJR大阪駅前がモデルです。
* * * ナカノシマ・25時 夜更けの街ってのはビルのライトが主役だ。あたしがターミナルの信号待ちで見上げると、夜空はネオンで青く照らされている。点滅のたび、空の色が変わるんだ。分厚いビロードの青から、透明な墨汁色まで。 風がビーッビーッ、植えこみを揺らしていく。バスターミナルはだだっ広いアスファルトの海に突き出した緑の岬。二週間ごとにとっかえひっかえされる花壇から咲きなだれる花、はびこる低木、垂れこめる藤棚で、さながらジャングルだ。 その上から、世界の壁みたいにでかく、うすっぺらなターミナル・ビルが、巨人のようにチビどもを見下している。いっせいに青に変わった横断歩道の四辺形の真ん中に立って見上げると、あたしの肩にななめにのめりかかってきそう。 ターミナル・ビルに限らず、都会は崩壊の不安をはらんでいる。沈みかかった月そっくりに、かしいでいるのは極彩色の広告板だ。端からトララララとネオンがともっていくたび、ちょっとずつずり落ちていくんじゃないかな。何の広告だか、文字は読めないけれど。あたしは眼鏡を忘れてきたから。 もう人はまばらだ。日曜日という旅が終わって、みんな疲れ切っている。どんどん前を向いて帰り着いて、なじみの寝床にもぐりこむだけ。そうして旅のことをしみじみ夢に見りゃ、明日からのルーティンをさしあたり忘れられる。 横断歩道の対岸に渡り着いてみると、ジャンジャジャ、ギターが鳴っている。汚れたジーンズに時代遅れのざんばら長髪な吟遊詩人が、フラワーポットのへりに腰掛け、悲しげな歌を歌っていた。 見物人はだれもいない。だから彼も安心して歌い続けるんだろう。ランララ、使い古されたコード。通り過ぎるとき、ちらっと歌の文句のかけらがとびこんできた。 光りながら 漕ぎだしていけ あたしはジャングルの中を岬の突端へ向かう。高層ビルの複眼に似たぎらつきも、茂った草木に遮られている。エリオステモン、アブティロン、ヒベルティア・ペドゥンクラータ、呪文のようにからまる名を持つ植物たち。1番、2番…オレンジ色の電光板の招くバス埠頭はがらんとして、さえた昼間の月面に負けぬくらい清潔なベンチが白い。路線案内図はもつれあう色とりどりの綾取りだ。 灰色の身なりの日焼けした男が、ベンチの一つに寝そべっていた。雑誌を数冊枕にし、一冊を手に持って解読するように見つめている。 あんなふうに寝ころんで、見上げたら、バズだまりの茶色の屋根や伸び放題の枝、街灯、色を変える空、それらが一度にあって、まるで無人島気分だろうな。そう思っていると、男はハタッと雑誌を下げ、よく光る、黒いまん丸な目であたしを見て言った。 「間に合わないところだったな」 * * * つづく。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
October 4, 2013 11:35:40 PM
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