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HANNAのファンタジー気分

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October 7, 2013
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カテゴリ:Hannaの創作
ナカノシマ・25時 つづき

 灯台のような標識灯に、黄緑の丸い光がペカッペカッとパルサーのように点滅している。その横に停泊しているバス、あたしを待っていた。
 白い流星のようなバス。中は深緑の藻の色のシート。運転士がただ一人、黒いコクピットに座って、銀のコショウをふりかける手つきで、あいた窓からタバコをはたいている。

 真夜中のまっさらなバスに乗りこんで、あたしはどこへ行くのだろう。ターミナルを離れ、つらなって泳ぐ魚群のような車の列にとけ入って、快調に進む。「つぎとまります」の緑のランプが、ブレーキのかかるごとにあやしく光っては消えるのは、ロックコンサートの照明を思わせる。
 いま、高速道路に入る。黄色の光あふれる料金所で、暗い帽子の運転士は関守の老人と秘密の護符を交換し、無言でブロック・サインを交わす。

 び・ゆーん---

 重力もついてこれぬ心地よさで、バスは加速する。まるで冬季オリンピック、ボブスレイの暗黒版。ホタルの列のように並んで横を流れてくオレンジの高い提灯。沈む暗闇。カーブ、ぐ・いーん---
 ハイウェイは血管だ。あたしのバスはそこをきらめきながら流れる赤血球。下でのろのろ止まったり動いたり、数珠つなぎのあれらは、静脈を行くがらくたたち。歯並びのよいビルは、無言でおとなしく、いささか鈍重な巨人のようにすてきだ。
 暗い川が近づいてきた。その向こうは血管に取り巻かれた心臓、堂々たるナカノシマのビルの群体だ。宇宙要塞、あるいは夜の海を漂うカツオノエボシにもっと似ている。

 つぎとまります

 ブリッジは飛行場のよう。び・ゆーんとカツオノエボシの脳の中へ呑みこまれていく。
 バスが泊まって、あたしは下りた。両替機にコインを入れたら、ジャンジャラと七色のガラスくずが出てきた。あるいは星のカケラ? 運転士は黒い帽子の下からちらりとあたしを見、白い歯を光らせてほほえんだ。
 そこは無人の地下駐車場。どこかさらに下から、ぐ・おーん、ごん、ごんという大地のうめき声が聞こえる。あたしの足音もこだました。遠く明るいガラスドア。開ければ、樹脂ばりの廊下。ぐ・おーん、ごん、ごん。かすかに振動する床をぺたぺた踏んでゆくと、つきあたりに手術室めいた広いドアがある。

 編集局

 ギイ、と開けると、真っ白な室内と、倍速映像のように動き回るアリたち。駆け回り、駆け戻り、何かをくわえ、上へ下へ。そのざわめきが幾重にも重なって、さっきのうめき声も消し去るほどだ。
 ディスプレイボードが並んでいる。一つを覗くと、画面は真っ暗で、心電図のような光点がゆっくりと、左上から下へ、さらに折り返して右上へ、右下へと、グラフを描く。一往復すると、ぱちっとシャボン玉のようにはじけて、今度は金平糖の形の光点になった。さっきのお釣りの星くずのようだ。
「脈拍を測っている」
 顔を上げると、あたしと同じ大きさの真っ黒なアリが、触覚を振りながら説明してくれている。
「誰の?」
「この船の、ですよ、ぼっちゃん」
 アリにぼっちゃんと言われてむっとした。
 けれど気がつくとぼくは紺の半ズボンの制服を着た男の子になっている。胸には空色のチューリップ形の名札。だが名前を記す場所はまったくのブランクだ。

 そのとき、壁の非常ベルが鳴った。

 び・いーっ、いーっ、いーっ!



* * *
つづく。

 

 






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Last updated  October 7, 2013 11:00:53 PM
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