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カテゴリ:近ごろのファンタジー
話題の和製ファンタジー!との噂を聞いた2年前、図書館の予約はいっぱいで、なかなか借りられませんでした。今になってようやく読んでみたのですが。
さまざまなタイプの魔法が混在する異世界。養い親の女魔道師(とその弟子の少女)を殺された主人公の復讐譚。色々な魔法の詳細や、海・月・闇などの象徴性、生まれ変わりなど時間的・空間的広がりを見はるかすところ、など、良質のファンタジーの要素はじゅうぶんです。 キャラクターもわりと魅力的だし、呪いや闘いなどの迫力も満点。 ただ、男性性・女性性と魔法をからめたところは、ちょっと説明不足というか、納得のいかないところも。主人公は男性ですが「月」の力をもつ女性シルヴァインの生まれ変わりであり、彼女を含む魔女3人の前世を重層的に体験します。「月」の魔力は女性固有の物と説明されるのに、なぜ彼は男性なのでしょう。 異世界の設定を、他と比べるのは乱暴かもしれませんが、たとえば荻原規子『薄紅天女』では、本来女性であるべき勾玉の主が、男性ですが、何がゆがんでそうなってしまったか、男性であることによってどんな影響が出てくるかを、きちんと追求しています。 『夜の写本師』の主人公カリュドウは、男性なので宿敵アンジストの警戒の目を逃れることができました(男性だったので良かった点)。しかし、それだけ? 彼がどうも結局だれも伴侶を得ることがなかったのは、もしかして何か生まれ変わりの悪影響? と書いていないのに勘ぐりたくなる私でした。 それから。 とても気になったのが、時々、おかしな表現が出てくること。物語を楽しむのを、邪魔される感じがします。本、とくに手書きである写本の奥深さ、貴重さ、魔力性をうったえる物語だからといって、まさか作者がわざと、間違った日本語を使っている・・・とも思えません。 たとえば・・・ ・「全けき~」。「全き~」が正しい。(「まったし」の連体形ですから) ・「たむろっている」。現代的な口語としてはあり得るかもしれませんが、古めかしくかたい文体の中で突然この言葉が出てくると、えっ? となります。 ・「長い長い糸口」。糸口、は糸の端っこなので、長いはおかしいです。 ・「…攻撃にいまだ堪えていることは脅威にあたいした」。前後の文脈からして、ふつうは「驚異にあたいした」。 ・「ガス抜きの灯火」。坑道でガスを抜くために灯をともすって、よけい危険な気がするのですが。爆発しないんでしょうか。通気口があるという意味でしょうか。もっと説明がほしいです。 (ところで、この物語には姫君が投げ入れた指輪をあとで見つけたら岩塩採掘がさかえたという、ポーランドの岩塩坑(名前を思い出せないのですが)の伝説が使われているようです。) ほかにも、対になる表現が片割れだけで消えてしまっていたり、長い文で主語と述語がかみあわなかったり、前の文と後の文がどうもしっくりつながらなかったりする箇所が、あちらこちらにあるようです。 さらに、物語も佳境に入るあたりで、夜の写本師の本領発揮というか、宿敵に魔法のかかった本で打撃を与える場面があるのですが、その魔法が発動する呪文となる文章(魔法書に書かれている)が、日本語なのです。 「ンエタアヲクフクュシノクコンア…」 ――乾石智子『夜の写本師』 これは「暗黒の祝福を与えん」というニホンゴのさかさ言葉です。せっかく今まで(ところどころにおかしな表現があるとはいえ)格調高くつづられてきた物語なのに、ここだけ、年少向けのクイズ本みたい。ちょっとレベル低すぎでは? 異世界物の魅力のひとつは、(トールキンのような)創作言語ですが、この物語でも固有名詞は独特の響きを持つ凝ったものが使われているし、いかにも異国の言葉を翻訳したかのような「御天守山」などの表記も出てきます。 ここはひとつ、物語にも出てくるパドゥキア語かフォト語のナマのことばを披露してほしかったところ。 それなのに、異世界言語の翻訳ではなく、日本語そのまんまをさかさにして、しかも「はじめの言葉が撥音で始まる言葉はフォト語にはあるが」などと解説するとは、あんまりです(この解説の文章も、最初の「言葉」と二つ目の「言葉」の意味がちがい、良い文とは言えないですよね)。まだ英語とかヨーロッパ系の言語なら、日本人にとっては異国風でよかったと思うのですが。 というわけで、揚げ足取りのようにいろいろ不満を書き連ねてしまいましたが、それというのも、ストーリーや異世界がとても重厚で魅力的なので、これらの欠点(とあえて言わせてもらいます)が目立って、気に障って、思うように物語世界に没入できなかったのが、残念でしかたがないからです。 私も他人のことを言えるほど力量があるわけではないので、自戒を込めて思ったのは、やはりきちんと気持ちよく流れていく文章を書くためには、正しい日本語を修得すること。ことにふだん使い慣れない古めかしい言い回しや単語を使って長い複雑な文を書くときには、じゅうぶん気をつけるべきですね。 この作者、どんどん新作を書いているようですが、それらを読みたいような、読みたくないような・・・ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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