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HANNAのファンタジー気分

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May 2, 2014
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 今日は文の里商店街入り口で開かれている、古本市へ行ってきました。五月初めの7日間、日替わりでテーマを決めて行われる「手摘みの七色市」(主催・居留守文庫)なんだそうです。

 今日のテーマはずばり「読む」。物語好きたる者、やはりこの日に行くべき・・・出かける都合がうまくついたのは偶然なんですが。
虚航船団 それで、目指す場所についたとたん、外に向けて出してあった展示スペースに、遠目からでもすぐわかる、むかし何度も見た赤い本が・・・筒井康隆『虚航船団』、ハードカバー。その血塗られたような赤いハコから取り出せば、布張りの表紙に雲形定規のしるしがあるはず。

 この本の出版された1984年、高校生だった私はそれまで真っ当に読んでいた世界の名作や夏目漱石などから、しだいに自分の好みに忠実な限定された読書世界に入りこみつつありました。
 その好みの世界に入れるべきかどうか無意識に迷っていたSFというジャンルでは、当時、“冷戦・核戦争後の環境破壊と文明の行方”を夢想するのが流行していたように思います。流行、というより一種の強迫観念みたいなものだったかもしれません。
 『風の谷のナウシカ』(映画)が話題になったこの年、新聞の書評欄で私の目を惹いたのは、新潮社から出た『方舟さくら丸』(安部公房)とこの『虚航船団』でした(私的な終末の物語の系譜はこのあと、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(村上春樹)、『アド・バード』(椎名誠)へと続いてゆきます)。

 図書館は家から遠かったし、本を買うお金も置く場所も少なく、いきなりハードカバーに手が出なかったあのころ、私は本屋さんでちょこちょこと立ち読みをしました。しかし、ハコから出す必要があるうえ、あの長さと複雑さ、到底そんなことで読み続けられるはずもなく。筒井康隆の軽い本は友人たちの間でも出回っていましたが、あの奇書を持っていて貸してくれる人もなく。
 おまけに、興味深かったイタチ族の長大な歴史が真(の世界史)に次第に迫りすぎていき何だかうすら寒く、夢見が悪くなりそうでした。赤いハコと、描かれたイタチのまなざしに、呪いがこもっていそうで。
 (ところで画像にあるオビの文句が、私にはいまだに解せません。とても「爆笑」する気にはなれない話だと思うのですが・・・)
 実は、もともとグロい描写が苦手なので、筒井康隆は好きではなかったのですよね。おまけに文庫で買った『方舟さくら丸』も便器の出てきたあたりでもう堪えられなくなってしまい(ユープケッチャ虫は好きだったのですが)、ちょっと自信をなくしました。

 結局、きちんと読めずに今日まで来ました。文庫も出ていますが、赤いハコとイタチの目と定規の刻印とがないと、それはそれで違う本のようで、買う気がそがれます。(インターネットには最近、女性キャラ化された萌えバージョンの虚航船団もあるようですがまさかそれで精読するわけにもいかないし。)

 そんな『虚航船団』が今日、歳月にグロさも色あせ、古文書のように風格が出て、目の前にあったのです。あの世紀末的恐怖も、若かったころの堆積物としてなつかしく感じられます。
 今が、読むべきときなんだな、と感じました。プレミア価格かも、と思っておそるおそるハコから引き出してみると、あの忘れがたい雲形定規のしるしが、まるでオカリナか勾玉のように優しげに見えます。背表紙の文字はかすれて、なまなましさが消え、熟成されたようです。

 中はとてもきれいでしたが、価格は安く、それに何と! 今日の特集テーマの対象であるために、値札の半額なのでした。こんな値段で、この長年の因縁の本を手に入れてしまっていいのかしら、と戸惑ってしまいました。
 やはり、今日はこのために来たように思います。

 ちなみに、古本市の会場内には、ほかにもなつかしい本や気になる本がいくつかありました。ピンクのキッチュな表紙は、夢の遊眠社「贋作・桜の森の満開の下」のパンフレットです。友人に連れられて、舞台を見に行きましたっけ。アイルランドの妖精に関する本は立ち読みすると、ブラム・ストーカーの「蛇峠」について書かれていて、かなり惹かれました。ドラキュラの作者はアイルランド人だったのですねえ。






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Last updated  May 2, 2014 11:41:57 PM
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