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カテゴリ:近ごろのファンタジー
アメリカン・ファンタジーの傑作『最後のユニコーン』に、37年後に書かれた続きの中編があったそうで、これが2009年に新訳された『完全版最後のユニコーン』に収録されています。ということを、つい最近知って、あわてて先日、図書館で借りてきました。
本編を私は鏡明訳のふるいハヤカワ文庫FT版で愛読してきましたが、作者ビーター・S・ビーグルが多作ではないうえ1996年の『ユニコーン・ソナタ』が題名のわりに続編ではなかったもんですから、すっかりあきらめて?いたのです。 『完全版』のほうは今をときめく金原瑞人訳で、わかりやすく、偏りなく真っ当な訳をする人だと思いますので、安心です。ただし、偏りがなさすぎて、鏡訳のようなこだわりや思い入れは感じないですけど。このへんは翻訳に何を求めるか、初めて出会う訳かどうか、などの問題にからんでくるので、単純に比べるべきではありません。 で、続編です。『最後のユニコーン』で「おろかな」という形容詞が何度もつけられていた英雄、リーア王子の晩年のグリフィン退治の物語です。 王子は最後のユニコーンであるアマルシア姫に恋をし、英雄となり、彼女と、すべてのユニコーンを救い、最後に王となりました。続編では少女が語り手となり、村に被害をもたらすグリフィン退治をリーア王に依頼します。魔術師シュメンドリックと連れのモリーも再登場。二人はあまり変わっていません。しかし、リーアはすっかり年老いていました。動作はのろく、椅子の上で寝てしまうし、モリーの名を呼び間違えたり、有り体に言えば「要介護」な感じ。 しかし、彼はなお英雄なのでした。ユニコーン、の一言でリーアは昔日の力を取り戻し、自らグリフィン退治に出かけます。最期の戦いになることを覚悟の上の出発です。 ・・・これはずばり、「ベーオウルフ」ですね。古英語で書かれたデーン人の勇壮な叙事詩(8~9世紀)。ここには二つの武勲が語られているのですが、一つはベーオウルフの若き日の怪物退治。これによって彼は英雄の名をとどろかせ、のちに王となります。しかし、叙事詩はこれで終わりではなく、何年も後にベーオウルフが竜退治に赴く話が続きます; ベーオウルフは老い、かつてはこがね色であった髪も灰色になっていたが、いまでも戦士であった。また王でもあった。彼にとって最後の心のなぐさめとは、民のために死ぬ義務と特権であった。 --ローズマリー・サトクリフ『ベーオウルフ』井辻朱美訳 リーアもその通りなのです。ベーオウルフが竜と差し違えて死ぬように、リーアもグリフィンを退治すると同時に自らも死を迎えるのです。それは、ユニコーンにもくつがえせない「結末」であり、リーアの英雄としての義務であり特権なのでした。 自己をどのように確立しどのように生きるかが人生の課題であるように、自己をどのように完結させどのように死ぬか、も、特に現代の高齢化社会においては、切実で重大な課題です。ベーオウルフ、そして老いたリーアの最期を語る『二つの心臓』は、それに対する一つの答えなのでしょう。 それはまた、指輪と宝を得て自己を確立する『ホビットの冒険』のあと、トールキンが『指輪物語』で指輪をいかに手放して中つ国を去るかを書いたように、ビーグルにとっては、書かなくてはならなかった続編なのだといえるでしょう。 そんなわけで、リーアは立派に死んでゆきます。 タイトルになっている「二つの心臓」は、端的には、グリフィン=ワシ+ライオンなので、 「ワシの心臓も脈打っているし、ライオンの心臓も脈打っている。だから、その両方を貫かないと、戦いに勝つことはできない」 ということを指しています。リーアがライオンの心臓を剣で刺しても、グリフィンのワシの半身は死んだライオンの半身を引きずりつつまだ襲いかかってきます。語り手の少女は、死んだ愛犬をひきずった自分のようだと感じます。 しかしこれは、リーアにも当てはまることなのです。リーアにも、二つの心臓=自分があります。老いぼけて物忘れがひどく、もらしてしまったりする「要介護」のリーアと、陽気で元気で「美しく、ぞっとするような」ほほえみを持った英雄王のリーアと。そして、英雄リーアは老人リーアを引きずりながら、最後まで戦うのです。 そう思うと、年齢不詳の魔術師シュメンドリックがときどき幼い子供のような表情になったり、すれっからしの(続編では老女の)モリーが乙女のように見えたり、誰でも二つの心臓を持っているのかなあ、という気もしてきます。そして片方を引きずりながら、生きていき、あるいは死んでいく。 ベーオウルフを思わせる普遍的な話ですけれども、作者自身も年を重ねたからこそ書ける物語なんだな、と(年を重ねた)読者としてしみじみ味わうことができたのでした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 14, 2014 11:56:32 PM
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