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カテゴリ:近ごろのファンタジー
前回書いた『J.R.R.トールキン 世紀の作家』にはさまっていた評論社の広告で見つけ、とりあえず図書館で借りてみました:ドラゴンシップ・シリーズ1『インディゴ・ドラゴン号の冒険』。なんせ主人公の三人が、“インクリングス”のあの三人だというので――チャールズ・ウイリアムズ、C.S.ルイス、そしてJ.R.R.トールキン。
三人のフルネームは物語の最後で初めて明かされます。しかし、C.S.ルイスかトールキンのマニアで多少なりとも伝記的情報を知っていれば、最初の章で気づくはず。これはまだ若い三人が、初めてオックスフォードに集ったその時に、じつは異世界の冒険に放りこまれていた・・・という設定のファンタジーなのです。 しかも、物語中にはアヴァロンやノアなど神話・伝説から、プリデインなどの現代のファンタジーまでの、超有名な固有名詞が次々に登場。さらにこれから書かれるはずのルイスの「ナルニア国ものがたり」のモデルとなるかのような、フォーンやアナグマも活躍します。 舞台となる空間の名前「アーキペラゴ」はル=グインの『ゲド戦記』シリーズに敬意を表したものでしょうし、ストーリーの主軸は、歴史ファンタジーの一大基点というべきアーサー王伝説です。 どこをとっても、ファンタジーや神話・歴史小説などの読者にはお馴染みのキャラクターと舞台、展開があり、これはたいへんよくできたマニア小説と言えるでしょう。 作者オーウェンはアメリカの有名なコミック・ライターだそうで、そういえばこういうクロスオーバー(異なる原作を複数混ぜ合わせたエンターテイメント作品)はアメリカではとても盛んだそうです。厳格な原作愛好家は評価しないかもしれませんが、しかしマニアとしては愛する物語世界やキャラクターで自分なりの世界を作って楽しみたいという思いは自然なこと。 アイルランドの「民話」に、活躍年代の異なるはずの自国の二大ヒーロー、クーフーリンとフィン・マックールの対決、という滑稽譚があります。日本映画でいうと『キングコングVSゴジラ』なんかが古いでしょうか。まあいろんな無理矛盾はおいといて、「もしキングコングとゴジラが戦ったら?」みたいな発想は楽しいですよね。 『インディゴ・ドラゴン号の冒険』に話を戻しますと、そうした有名作品のモチーフを発見する楽しみのほか、主人公三人の人物像を楽しむこともできます。あとで神秘的・オカルト的な作品を書くチャールズ・ウイリアムズがはじめとっても現実主義者だったり、若々しいルイスが熱血していたり、そして我らがジョン(トールキン)は初めから学究肌で、戦争体験の直後なのでちょっとじめじめしています。でも、大丈夫。彼らの成長ぶり(お定まりなんですけど)も、わかりやすく描かれています。 ストーリーは次の『レッド・ドラゴン号を探せ!』、さらに第三巻へ続くようですが、ううむ、難を言うと、作者が漫画家なのに、私はその絵があまり気に入りませんでした。海外のコミックスでは先だって感動したフランスの『闇の国々』の圧倒的すばらしさに、及ばない気がします。 さらに、「ドラゴン号」に焦点をあてた表紙と邦訳タイトルも、ベタすぎていけません。原題は異世界の地図である「イマジナリウム・ジェオグラフィカ」シリーズ、第一巻のタイトルは、I HERE, THERE BE DRAGONSといい、この方がカッコイイですね。(ここに我、かしこに竜在り とでも訳せそう)。でもこのタイトルだと日本では売れないのでしょうが。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
June 17, 2015 12:05:37 AM
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