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テーマ:ライトノベル(683)
カテゴリ:近ごろのファンタジー
基本的にライトノベルズは「読めない」私ですが、前に娘が貸してくれた『零崎人識の人間関係(匂宮出夢との関係)』を予備知識なしで開いたところ、いろいろ拒絶反応はありながら、なぜか印象に残ったので--「西条玉藻は現象である」などという文章が特に。それで、ふと『零崎曲識の人間人間』を借りて読んでみたのでした。
作者は、人気で多作で縦横無尽にキャラやストーリーを産出しているらしいですが、知識が豊富だし文章がウマいですね。 ラノベなんで(というと偏見ぽいけど)、会話が軽くて擬音だらけで辟易とするけれど、たとえば「修羅の道」「塗炭の苦しみ」のような表現がその中に自然に(わざと作った決めぜりふ等ではなく)出てきたりします。こんな古典的な言葉を若者コトバに入れこむと、そこだけ浮いてしまったり、ギクシャクしたりしそうなのに、なだらかに流れていきます。作者がその表現をじゅうぶん使いこなしているということでしょう。 凝った固有名詞も、ぶっ飛んでいますがどれも魅力的で、一筋縄ではいかない感じ。たとえば西条玉藻は玉藻の前(伝説の九尾の妖狐)を連想させ、東洋伝奇物の香りがふとしますが、別にこのキャラクターは狐でも傾城でもなく、何でも?ナイフで「ズタズタ」にする少女狂戦士(バーサーカー=北欧神話の熊皮をかぶったアレです)。しかし、少女狂戦士に玉藻と名付けることで、作者は何らかの意味付け(または風味付け)を行っているらしく、それを考え味わいながら読むのも楽しいものです。 この作品は「戯言シリーズ」の外伝ということですが、ちょうどシリーズのアニメ化が決まったそうです。 しかし外伝もふくめて20巻近く出ているのに、物語世界の全体像や主人公「戯言使い」(そういえば戯言というコトバも古風ですねえ)こといーちゃん(他にも呼び名が多数)の本名、役割などもじゅうぶんに明らかにされていない--というより、作者自身も自分の作った世界やキャラがどこへ行き着くのか探索しながら書き進めているみたいです。少なくとも、私にはそう感じられます(もしかすると、そう感じさせるように作者がつくっているのかもしれませんが)。 ミステリや推理ものを書くのに、世界の構造やストーリーを決めてから細部を創っていく作家も多いでしょうが、この作者はミステリを自分で創っては解きながら自分の内にある世界を産み出し(あるいは発見し)続けているようで、そのつくり方が、ファンタジー世界の構築と共通するように思います。 そんな私好みなところもある一方、殺人と暴力が日常茶飯的にてんこもりで、これはいただけません。救いは作り物めいた可愛らしい挿絵なんですけど、私の脳内には挿絵とは別のリアルな殺し合い場面がどうしても浮かんでしまいます。『零崎人識の人間関係』ではいきなりクラスメイトがみんな殺されちゃったので私は相当、「退き」ました。 これをほんとうの殺しと見ずに、たとえば疾風怒濤の思春期的、精神的殺しと読み替えることもできます--人識くんは匂宮出夢くんとの奇妙な友情世界に入り込むと同時に、他のクラスメイトのことが心から抹消され自分が周囲から浮いてしまったと意識した、のかもしれません。しかし、こういう読み替えは、この物語の読み方としては何か違う気がします。 むしろ、登場人物全員が二次的空間の作り物のキャラクターに過ぎず、作者(あるいは西東天などという因果の外の登場人物)の試行錯誤やゲーム感覚のままに、生まれたり殺されたりしている、という方がしっくり来ます。 というのも、登場人物たちは殺し合いながらもどこか醒めていて、時に自身たちを「プレイヤー」と呼びます。ゲームの「プレイヤー」でしょうか。背後の誰か(って、西東天的な? または作者?)に操られている「プレイヤー」でしょうか(他人に操られるということは、この物語群の重要な要素のようです)。いずれにせよ、メタフィクションな匂いを醸し出すコトバです。 ライトな会話を連発しつつ、自分の運命さえ外から眺めているようなキャラクターたち。とくに今回の主人公零崎曲識は、若い(子供の)ときから自分も世界も見切っているようで、どんな状況に対しても、 「それだけのことだ。悪くない」/「零崎を始める〔=殺人鬼と化す〕のも、悪くない」/ 「ここで死ぬのも、悪くない」/「それはそれで、悪くない」 --西尾維新『零崎曲識の人間人間』 などと言います。 自分がどうして今ここに生きて(生かされて)いるのか、いつどうして死ぬのか、世界はどうなっているのか、私たちは実はなかなか分からないまま、「それはそれで悪くない」と見切って毎日を送る、それはありがちな生き方です。 生も死も殺人にも、ほとんど無感動な曲識。しかし、それとは別の次元で実は彼には彼なりのこだわりと情熱があった、というのがこのお話です。そのあまりにもベタなこだわりと情熱は、常軌を逸した「殺人鬼」とスプラッタ世界の中では、かえって貴重な輝きを放っています。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
July 6, 2016 12:39:13 AM
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