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HANNAのファンタジー気分

HANNAのファンタジー気分

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May 23, 2020
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 難解だから理系、と決めつけてはいけないんですが、一度はちゃんと読まなきゃと長年思っていたボルヘス『伝奇集』、1度ではわけがわからず、続けて2度読んでみました(個人的に、同じ本を続けて2度読み返すことはとても稀)。

 ボルヘスが選んだ「バベルの図書館」という幻想文学選集がありまして(日本では国書刊行会から出版)、その1冊ロード・ダンセイニの短編集『ヤン川の舟唄』を持っているので、以前から選集の名の由来であるボルヘスの有名な短編「バベルの図書館」を読みたかったのです。

 この話では、蜂の巣状に無限に広がる図書館に、すべての事象についてのすべての本が無限に?あり、そこで暮らす主人公が、この無限図書館=世界・宇宙のさまざまな解説や解釈について紹介しています。つまり、じつは図書館自体の話ではなく、我々ニンゲンが図書館=世界・宇宙をどう解釈するか、についての話。

 哲学的というより、何だか人(読者)を食った感じがするのは、蜂の巣1つ(1部屋)の壁に書棚5つ、書棚1つに本33冊、本1冊に410ページ、ページ1つに40行、行1つに活字80…という、数字の苦手な私には無意味にしか見えない記述です。世界は無意味なモノの無限の集合体で、ニンゲンは意味を見いだそうとむなしく右往左往しているだけ、と、突き放された感じ。

 作者が、自分で語る物語を自分で冷酷に突き放す感じは、他の短編でもそう。
 架空世界の百科事典についての「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」でも、架空世界の設定資料集みたいな部分をファンタジー気分で読んでいると、“ほらね、この百科事典を作り、現実の世に出し、それについて調べる者が現れることで、現実が少しずつ変容していくでしょ。もうトレーンを知らなかった世界とは違う世界になったでしょ!”という、うすら怖い(でもよく考えると無意味にも思える)オチがついてきます。

 物語を包みこむ、世界の枠組みに込められた、もう一つのより大きな物語が、そこにはあるのです。

 この構造が『伝奇集』すべての短編にあるようですが、あるものは仕掛けがちゃち、というか俗物的でそれほど怖くない(し、面白くない)ように思えます。ミステリ仕立ての「死とコンパス」「刀の傷」「八岐の園」は、よくある話っぽい。ただし、これは以後の作家がボルヘスの影響をすごく受けているせいかもしれません(それこそ、ボルヘスを知らなかった世界とは違う世界になったわけだ!)。

 異国情緒の楽しめる「アル・ムターシムを求めて」や、「円環の廃墟」(ミヒャエル・エンデっぽい。というか、エンデもボルヘスの影響を受けているのかしら? またはボルヘスと同じことに着目しているのかしら? ーーなどと思わせるところが、ボルヘスの真の狙いかも)は、結構わかったし、楽しめました。

 宗教問答的な「ユダについての三つの解釈」「フェニックス宗」は、宗教心の薄い典型的日本人の私には、ヘリクツみたいに思えました。「『ドン・キホーテ』著者、ピエール・メナール」も、宗教じゃないけど、同類?

 あとは、数学が苦手だと頭がごちゃごちゃしてしまう「バビロニアのくじ」、これも結局、人生そのものの人を食ったたとえ話のようです。なんか元も子もないなあ、と思わせられちゃう。

 とにかくさらりと読んだ表面とは別の、もっと大きな仕掛けが背後にあって、実はこういうことだったんだよと、言わせたいけど、その「実は」が何だか感動を呼ぶというより、むなしさを呼ぶ感じ。読者はボルヘスというお釈迦様の手のひらで踊らされていたっていうか。

 唯一、南米的叙情があふれる「南部」が、素直に気に入りましたが(ガウチョ・パンツのもとになった南米のカウボーイ「ガウチョ」がいい味出しています)、なんとこの話も、古き良き南部だましいが描かれる後半は、都会にいる主人公が死ぬ間際の夢だった、という解説がありまして、エーッそういう解釈もありかもしれないけど、何かだまされた気分だなあ、と思ってしまって、再読しても伏線とか特に気づかなかったです。

 どうも、理系脳でない私が鈍感すぎる方面に展開されている話らしい、ということが、分かったような、分からないような。





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Last updated  June 7, 2020 12:22:31 AM
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