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カテゴリ:ファンタジックなSF
拙作『海鳴りの石』と同じ、“グリーンファンタジー”シリーズ最新刊です!
昨年末に、銀の鈴社からいただいて、味わいながら読ませていただきました。 舞台は日本の東北地方の原生林。人工的に加工された小石を見つけたことから始まる、人目につかず生き続けてきた小人族との遭遇。 文明社会のすぐ近くにありながら、人間たちと交わらず、どこまでも自然にとけこみ野生動物や植物とともに生きる彼らの生き方。 あとがきによれば、作者永井明彦氏は陶淵明の桃源郷から想を得たそうですが、読んでいて私は日本のファンタジーに出てくる小人たちをどうしても思い浮かべましたーー佐藤さとる『だれも知らない小さな国』やわたりむつこ『はなはなみんみ物語』、最近では『こびとづかん』(絵本、なばたとしたか作)『ハクメイとミコチ』(コミックス、樫木祐人作)なんかもありましたっけ。 これらに共通するのは、私たちが近代化で失った社会--自然の中で自給自足のサステイナブルな生活をしているところです。 でも、この物語はそんな小人たちをノスタルジックな感傷で描いたり、ふわふわと楽しいメルヘンにしたりはしていません。 小人と遭遇する主人公の目を通して見ると、小人の暮らしを知ることは、はねかえって私たち自身の社会を外から客観的に見直すこと。そしてふたつの生き方を、生物学、社会学、文化人類学、歴史などいろんな視点から研究・思索していくことになります。 証拠や資料を探し、仮説をたて、考察する、その理詰めの緻密さで、ほんとうに小人族は存在するんだと読む方にも思えてくるのです。 さらに、舞台背景となる谷川や木々、笹原や岩、花や鳥、日差しや雨など大気の様子まで、描写が真に迫っています。適当に配置してご都合主義で出てくるのではなく、あるべきところにあるべき姿で主人公たちの前に現れて、読者の五感に抵抗なく入ってくるのです。 このリアルさはすごい、と思ったら、じつは作者は登山の達人、日本の山々と自然に関するプロフェッショナルな方なのです。巻末にある作者の略歴を見て、なるほどとうなずきました。 山の中に小屋を建て、川原で天然の温泉につかり、樹上に秘密基地のようなハウスをつくり、クライマックスでは(→以下ネタバレ注意)地震で崩れた小人たちの住処で、ほぼ人力で救出作戦を展開します。このあたりのリアルさは、たとえばアーサー・ランサム作品に野外生活のリアルがあるように、空想物語とは思えない力強さをもたらしています。 というわけで、これは小人が主題のSFなのですね。異星人でもタイムスリップでもない、現代の日本の地続きのSF世界。なんだかわくわくします。 そして、SFならではの大問題として、小人たちの秘密を絶対に守るということがきっちりと語られます(ファンタジーなら夢だった、小人は消え失せた、で済むかもしれませんが)。狭くて都市化の進む日本では、桃源郷を守るにはそれしかありません。 小人たちとどこまで付き合うべきか自制しなければならない主人公たちの悩みが、切実でちょっと悲しい気がしました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
January 31, 2022 11:47:15 PM
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