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HANNAのファンタジー気分

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December 18, 2023
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 若い頃、タイトルの「リアノン」(ケルトの女神の名)「魔剣」、そして舞台が火星、それだけで買った文庫本です。
 読み始めてみたら、ここでのリアノンは古代火星の堕ちたる神(しかも男神)だというので、なんだかがっかり…けれど、ストーリー展開が速くて小気味よいので、後半けっこう楽しめました。

 この表紙絵もそうですが、物語は古き良きテクノカラーなハリウッド調の冒険活劇。舞台が火星なのも、単にエキゾチックなロマンの香りがするから、かも。たとえば大航海時代の植民地とかでも同様の話がつくれそうです。

 始まりは火星の無法都市。主人公カースは典型的タフ・ガイ。
 呪われた神リアノンの墓を暴くと、SFというよりマジカルな、泡立つ暗黒のタイムマシンを発見。不思議の国のアリスがうさぎ穴を落ちていくごとく、いやそれより凄い恐怖と苦痛をともないつつ、暗黒を落下?して、カースは古代火星へ。

 先日、科学ニュースで火星の緑色の夜空の写真を見ました。私のありきたりな想像では火星の空は赤いと思ってましたが、ただの先入観でした。異世界の自然て地球の常識からかけはなれていて、それだけでファンタジックですよね。
 この物語の古代火星世界では、海が乳白色に輝いているという設定です。翼のある種族や海を自在に泳ぐ種族もいます。

 そしてヒロイン登場、一見サディスティックで高慢な軍装のプリンセス、ユウェインです。
 カースは、三枚目の盗賊だが重要な理解者ボガズの助けを得るも、奴隷となりガレー船を漕ぐ羽目に(ああ、「ベン・ハー」みたい)。でも大丈夫、反乱を起こして船を乗っ取ります。
 さらに、ユウェインの国を援助する、邪悪な蛇種族も登場。呪われたリアノン神から超科学の一端を教わり、世界征服を企んでいます。そもそも彼らに要らぬ知恵をつけたという罪で、リアノンは仲間の神々から罰せられ墓に封印されたのでした。

 カースは超科学の宿るリアノンの魔剣で船上の蛇族を殺しますが、やがて上陸した自由連邦みたいな国コンドールで、巫女的な少女エマール(表紙絵の女性です)から告発されます;

  「あなた自身が<呪われしもの>リアノンなのだから!」
  「リアノンがあなたの眼を通じて見守り、舌を通じて語るのよ」 ――リイ・ブラケット『リアノンの魔剣』那岐大訳

 カースは墓所でリアノンに憑依されていたのでした。おまけにそのリアノンは、自分は改心した、蛇族を滅ぼして罪をつぐないたい、などと言い出すのです。だまされるな!と激高する人々。カースは意志力で必死に自分の中のリアノンを押さえこみますが、コンドールの人々はリアノンの依り代であるカースを殺そうとします。さあ、どうするカース。
 ここからが面白かった。逆境を逆手に取った大芝居をうち、カースは蛇種族の根城に侵入しハラハラドキドキ危機一髪で逆転劇。ネタバレをしますと、リアノンはほんとに悔い改めて良い神さまになり、蛇族をやっつけちゃうのです。えー、そんな簡単に改心とかあり?

 近ごろの、闇落ちが流行のダークなファンタジーに慣れた心には、根源的悪を体現するリアノンがあっさり善玉になっちゃうので、あっけにとられます。だって、叛逆の堕天使サタンと同じ立ち位置だったんですからね。それが、キチンと反省して罪をつぐない、神さま仲間のもとへ戻るって…? でも、素直な心で喜ぶべき結末なんでしょうね。
 カースは実は犠牲者だった勇ましいユウェインを連れて、もとの火星(白かった海も干あがり町は猥雑で滅びに向かっている)に凱旋します。タイムトラベル的にはリアノンの改心はどうつじつまが合うんだろう?と思いますけど。魔剣をかかげて美女とともに未来へ向かうヒーロー、新たな旅立ち。

 でも、明るいエンディングを喜ぶ一方、ふと考えてしまいます。リアノンて、神々の知恵の一端を下位の種族に教えた罪に問われた点に注目すると、サタンというよりプロメテウス(人類に火を教えた罪に問われ罰せられたギリシャの神)ですね。ということは、超科学を教えられ悪用して世界征服をたくらみ、とうとうその超科学で滅ぼされた蛇族って、じつはわれわれ人類のこととも思えてきます。
 明るく力強いストーリーをも、やっぱりダークに読んでしまうのは、時代でしょうかね・・・





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Last updated  December 18, 2023 01:00:03 AM
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