テーマ:中国&台湾(3304)
カテゴリ:台湾の玉石混淆
日本統治時代の台湾でダム建設と水利事業につくした八田與一(はった・よいち)の息子さんが漏らしたことばに、
與一夫妻の生涯がなまなましく立ち上がってくるように思えた。 有名な偉人であるし、その夫人が終戦直後、夫の遺した烏山頭ダムの水の向こうに夫を追ったことも本を読んで知っていた。 しかしその息子さんを取材した記者の文章に胸をつかれた。 5月9日付『北國新聞』のコラム「時鐘」。 「思いがせり出す」という日本語表現を知らされた。 ≪きのう墓前祭が営まれた台湾の「ダムの父」金沢出身の土木技師・八田與一(はった・よいち)夫妻は、共に不運な最期を遂げている。 夫は南方へ向かう船が米潜水艦の攻撃を受けて死亡した。 同じ金沢出身の外代樹(とよき)夫人は終戦直後、夫が造ったダムに身を投げた。 作家の司馬遼太郎さんや台湾前総統の李登輝さんらが「夫に殉じた」などと紹介している。 が、昨年死去した夫妻の長男晃夫(てるお)さんは、その母の最期を語ることを避けていた。 亡くなる直前に取材の機会があり、「子を残して突然死んだ母を私は長い間、恨んでいた」と明かしてくれた。 墓参のたび、その思いがせり出したという。美しい言葉だけでは語れぬ友好物語である。 友好の井戸を掘った人を忘れぬ、という中国の格言を、大陸の高官がよく口にする。 時に、政治的な思惑にも利用されるのだが、技師夫妻への台湾の人々の敬慕こそ、この格言にはふさわしかろう。 墓参といえば北陸では旧満州への慰霊行も珍しくない。 遺族らは友好の贈り物を携え、現地で熱烈歓迎される。 とはいえ、墓どころか慰霊碑の建立さえ当局の方針で拒まれているのだという。 水の乏しい友好の井戸もある。≫ 八田與一は金沢の人なので、地元紙の『北國新聞』はしばしば取り上げている。 4月24日の社説には、八田與一の偉人伝アニメへの思いも書かれていた。 このアニメ、わたしもぜひ見たいと思う。 ≪八田技師がアニメに 「でっかい志」をもらおう 日本統治時代の台湾で、東洋一といわれた農業用のダムを建設、不毛の大平野を実り豊かな「黄金の土地」に変えたことで いまでも台湾の人々から感謝されている金沢市出身の土木技師・八田與一が、 今度、東京の虫プロダクションによって長編アニメ映画になる。 アニメ版「鉄腕アトム」などを手掛けた石黒昇さんが監督、脚本は田部俊行さんが担当する。 来年夏の劇場公開を目指しており、 金沢のほか日本国内や台湾での上映を計画しているという。 八田技師は、 今年になって絵本「よいっつぁん 夢は大きく」(ふるさと偉人絵本館シリーズ4、北國新聞社)になったほか、 劇団「昴」の芝居になって六月に金沢を皮切りに小松や七尾で上演されることにもなった。 なぜ、今、八田技師なのか。 おそらく、世界に向かって発信できる数少ない日本人だということが見直されたのだろう。 数多くの人たちが映画を通して八田技師から「でっかい志」や「不屈の精神」をもらうことになるだろう。 想像すると、愉快になる。かくいう私たちもそれをもらいたいものである。 台湾中部の山中にある高さ53メートル、長さ1,300メートルの「烏山頭ダム」が、八田技師が精魂込めてつくったダムだが、 その工事の指揮を執ることになったとき、わずか34歳だった。 本国にもない立派なものを…。 そんな思いで現地踏査してセミ・ハイドロリックフィル工法を採用したが、 アジアで初めての工法とあって自ら米国へ視察に赴き、判断の正しさを確かめたばかりか、 工事を急ぐため上司を説き伏せて土木機械を一そろい買って帰った。 現場には労働者とその家族のための住宅、学校、病院までつくったのである。 資金調達も優れていた。 本国からの援助のほか、必ず作物が収穫できるようになるから、と利益者負担で資金をまかない、その通りになった。 描いた計画の雄大さ、並はずれた合理性、上司を動かした情熱等々が台湾の人々の胸を打ってやまないのである。 このような志は今の日本にあるだろうか。 八田技師は現代の私たちにそう問い掛け、なければ持ってほしいと言っているようだ。≫ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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