カテゴリ:美術館・画廊メモ
ひとつひとつの絵を単一独立のものとして見るのでなく、(ぼくのことばでいえば)たとえばタロットカードの図柄とみてもよいのだ。
タロットカードの図柄は、1枚1枚を見ても楽しめるし、いろんな並べ方でもって装飾画としての楽しみ方ができる。 “暗い冥い”画像の典型のようなムンクの絵もそんなふうに、連作が織りなす装飾として楽しんでもいいのだと、教わってしまった。 というか、 なんとムンク自身が自らを装飾画家と位置づけて、大学の講堂の壁画や資産家の邸宅の壁画などを請け負っていたのだ。 彼のアトリエのようすを記録した写真をみると、作品が連作として壁面にずらりと並び、そこにプロデューサーとしてのムンクがたたずんでいる。 来年1月6日まで上野の国立西洋美術館で開催されているムンク展は、副題が The Decorative Projects(装飾企画)。 有名な古典作の「叫び」や「思春期」に向き合う気分で、ひとつひとつの作品に沈潜してゆくのではなく、 ムンクが企画者=プロデューサーとして躍動する存在であったところに光をあてつつ、作品を連作装飾として見てみたらどうかと、そんな視点を提供してくれる。 ムンクの作品にはこれまで出光美術館などで出会ってきたけれど、“くちゅくちゅ”描いた くすんだ色彩というイメージが先行して好きになれなかった。 今回の回顧展をみて、ムンクの色彩の意外なほどの跳躍ぶりに驚いてしまった。 冥いモチーフからみれば意外なほど、まるでセザンヌのような軽快な色彩があった。 そして無造作にみえる線でもって、抱擁の瞬間やセックスに身を委ねようとする飛揚の気分を心憎く再現している。 図録の装丁がダンディーだ。用紙と印刷方式の選択もよろしくて、作品の再現が石版画の味わい。 すっかり気に入ってしまった。 東京の後は、来年1月19日から3月30日まで兵庫県立美術館へ場を移す。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Nov 3, 2007 11:06:11 PM
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