カテゴリ:科学技術に驚く
「動物を倫理的に扱おう会」(People for the Ethical Treatment of Animals) という団体が100万ドルの懸賞つきで 人工培養肉の商業化を と訴えている。
後述のとおり、賞金をもらうための条件を読むとものすごくハードルが高いが。 構想は手塚治虫の漫画『火の鳥』の人工生命工場の一場面よりも気味が悪い。 大豆から合成する肉では満足できない一般人のために、ぷよぷよとした食肉を生物学的に培養することで、大脳つきで生きていた生きものの肉と組成的に変わらないしろものを作れないか ―― それができれば、食肉用に劣悪条件で飼育され残酷に殺害される家畜の悲劇をこの世からなくすことができる ―― 『ニューヨーク・タイムズ』紙の4月23日の社説が 「百万ドルの肉 Million-Dollar Meat」 と題して論じていたが、味があった。 飼育と屠殺の条件改善という根本の趣旨には賛成しつつも 「食肉が培養タンクで製造されることで、家畜の群れがこの世から消えてしまうとすれば、それも味気ない殺伐とした世界だ。 いま存在する家畜たちがこの世に生まれ育てられてきたのもまた、人間の営みあればこそなのだが」 と結んでいる。 「この世に存在する」 こと自体がひとつの幸せなのであるという基督教の常識を下敷きにして論じているように思えた。 食肉が人工培養で作られるとなると、屠殺というゴールのためとはいえとにかくもこの世に生をうけるしあわせを、畜獣たちはもう得ることができないのか? さて、「動物を倫理的に扱おう会」の懸賞金100万ドルの条件は厳しい。 細胞分裂が進んで機能分化する前の原初的な細胞(幹細胞 stem cell)を培養する実験は生物学の世界で行われてはいる。 それを大規模に商業ベースで行えるようにしてくれというのだが、懸賞期限は4年後の平成24年6月30日。 フライドチキンにして試食しても本物と区別がつかないようなものを、一般販売可能なコストで作れるようにし、必要な認可を得たうえで少なくとも10の州で実際に販売するのが、懸賞の条件だ。 懸賞金の100万ドルを採算に織り込んでもとても難しいと思うが、世の中の研究開発を加速するきっかけをつくる提案にはなっている。 工場のなかでぷよぷよと培養肉が育つ光景を想像すると不気味だ。 だが、考えてみると醤油や酒の醸造だって液体のなかで微生物がうごめきあふれている。 われわれがウルトラマンの目をもっていれば醸造桶のなかも同じように不気味かもしれない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Apr 24, 2008 07:26:01 AM
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