カテゴリ:ことばと文字
さいきん勤務先の若い人たちのメールに 「御座います」 という文字遣いが増えている。
わたしの感覚だと、業務上のメールや文書に 「御座います」 などという文字遣いはありえない。 呑み屋の女将(おかみ)が 「近ごろは御来駕いただけずお淋しゅう御座います」 と書いたりするのに使うものではないか。 手書きの時代に、筆画の多さをものともせず 「御座います」 などと書くのは手間をいとわぬ水商売の意気があればこそ。 そもそも社内に、まどろっこしい 「ございます」 調の文章は、まずなかった。 ところが、パソコンだと漢字変換で簡単に 「御座います」 が出る。 世間ではあまり使われない文字遣いなのだが、そもそも読書量が少なく、手書きの文章修行もしていない若いひとは、漢字変換機能を先生にしてしまう。 年長者が言ってやらないと分からないだろう。お触れ書きを部の全員にメールした。 世間さまのお役にも立つかと思うので、ほぼそのままご紹介しよう。 ≪最近、一部の人たちのメール表現等で気になる点があります。 以下の2点に折々留意いただければと思います。 いずれも、パソコン使用に伴って漢字変換をしすぎる例です。 当部では、経伺書類等で日本語の文章の書き方も大切なので、あえて指摘させていただきます。 1. 「御座います」 「御座居ます」 「明日の夕食会の場所は xxxxx で御座います」 「有難う御座います」 のような例を最近 とくに若い人たちのメールでよく見ますが、 手書きなら 「御座います」 とはまず書かないことでしょう。 「明日の夕食会の場所は xxxxx です」 「ありがとうございます」 が、自然です。 社内業務で、丁寧なほうがいいと思って 「御座います」 を使うのは逆効果です。 バカ丁寧は、失礼なことさえあります。 (「御座います」 などという文字表現は、飲み屋の女将(おかみ)が来店催促の手紙に使うようなものだと、あえて付言しておきましょう。) 2. 「xxxで有る」 「xxxx大きく無い」 「Aさんは肉を食べ無い」 「集合場所は渋谷で有る」 と書いてあったら、おかしな感じがするでしょう。 「食べない」 「渋谷である」 と書きますね。 ところが、最近以下のような例が経伺書類等に散見します: 「融資組成が好調で無い時期には」 「事業収益額は大きく無い」 「事業収益は xxx 億円で有る」 ついつい漢字変換してしまったのでしょうが、このような不自然な漢字の使い方は、かえって文章を読みにくくします。 「融資組成が好調でない時期には」 「事業収益額は大きくない」 「事業収益は xxx 億円である」 と書いてあるほうが、目がつっかえずに、すっと読めるでしょう。 総じていえば、「ある」 「ない」 は、すべて ひらがなで書いておくのが無難です。 漢字変換しても字数は減らないし、読みにくくなるだけです。 とくに 「~である」 や 否定の助動詞の 「ない」 は、漢字で書くのは間違いです。 (「そういうことも有りうる」 「連絡がなかなか無い」 のように、漢字で書いたほうが読みやすい場合もあります。 それは、 「ある」 「ない」 が独立した動詞・形容詞として機能しているときです。) 以上、参考にしてください。≫ いまの若い人たち、よく頑張っている。 その姿を見ているから、わたしは日本の将来に対してまったく悲観的でない。 パソコンとメールの時代になって、若い人たちの雑用が減り、実務量が飛躍的に増えた。 日々鍛えられていく様子は、見ていて頼もしい。 ただしその一方で、わたしが入社したてのころのように、書く文章すべて真っ赤になるまで添削されて文章修行をするということが、いまの若い人たちには無い。 だから、ときどきは愛想ならぬ老婆心をふりまくことも必要だ。 * ふと思い立ってグーグル検索をしてみた。 世間では 「ありがとうございます」 をどう書いているのか。 ありがとうございます 67,500,000件 有難うございます 5,680,000件 有難う御座います 2,240,000件 有り難うございます 1,760,000件 ありがとう御座います 928,000件 有り難う御座います 678,000件 有難う御座居ます 57,600件 有り難う御座居ます 8,430件 ありがとう御座居ます 4,360件 「有難う御座います」 「ありがとう御座います」 が大健闘しているのにはビックリである。 こういう文字遣いの傾向は年ごとに変化していくと思うので、このようなグーグル検索結果を定期的に行った結果が残っておれば、国語史を書くうえでも有益だろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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たしかにパソコンだと、勝手に字が変換されるので、鵜呑みにしてしまうことがあります
便利な反面、確実に自分で考える力は低下していることでしょうね (Feb 4, 2009 07:08:30 AM)
メールやブログなど、本人の推敲や他人の校正を経ていない文章には、兎に角、沢山の謝りが御座いますね。
はじめまして。メールマガジンを拝読しております。今回、初めてコメントします。 「御座います」で思い出したのが、漱石の当て字です。若い頃、「兎に角」や「沢山」「出鱈目」などは、当て字が正しいのだと思っていたほどです。しかし、これらの「兎に角」「沢山」「出鱈目」は、そのままパソコンで変換して出るものですから、これらが当て字とは思わない人も増えているかも知れませんね。出自はともかく。 さて、パソコンを鵜呑み、とありましたが、新聞や出版物の場合共同通信社の「記者ハンドブック」を基準として文章を書きます。後半指摘されていた「ある」や「ない」は助動詞ですから、もともとかな書きです。動詞として用いる場合もやはり「ある」「ない」のかな書きが「記者ハンドブック」の基本です。が、この「記者ハンドブック」を盲目的に基準にしていると、盲目的に「漢字変換」を信じるのと同じような問題にぶつかります。 どんな文章でも、その人の背景がにじみ出るものなんですね。 (Feb 23, 2009 11:30:43 AM)
御座居ます、といふのはソモソモ間違ひです。
時々、歴史的假名遣ひで「ござゐます」と書く人がゐますが、「ございます」は「ござる」の丁寧形「ござります」が元で、イ音便なので、ございます。と書くのが歴史的假名遣ひにおいて正しいのです。 「居る」といふのは正しくは「ゐる」と書きます。 さうなると、御座居ます、と書くとルビは、ござゐますとなり、イ音便を無視した間違ひの漢字になってしまふのです。 若い人が漢字を使ふのは、より畏まった表現になると思ってゐるからぢゃないでせうかね。僕は手書きならばひらがなで書いたはうがいいと思ひますが、パソコンならお好きなはうでいいと思ひます。 それに、有難う御座います。と書くと「有り難い」ことなんだな、と何気なく使ってゐる「ありがたう」の本来の意味を漢字から思ひ出しますし、僕は好きですけどね。 (Jun 20, 2010 07:07:30 PM)
漢字は、もともと外国語なので、なるべく音読みの言葉はつかわないとか、なるべく漢字はつかわないようにすることで、やわらかく、言葉が心地よいものになると思います。
(Aug 6, 2010 06:53:25 AM)
ただ単に、若者を否定したいというだけではないですか?
業務用文書というものは、業務に関することを伝えるものであって、いちいち細かく言葉遣いをチェックして書くものではないと思います。あなたの様に、文書に書かれている要件よりも、いちいち言葉遣いに文句をつけるような人が、会社の効率を下げているのでしょう。 「読書量が少なく、手書きの文章修行もしていない若いひと」というのも、ステレオタイプ的な発想ですよね。大きなお世話です。勝手に決めつけないでください。確かに、ブログの文書くらいしか読まない若者もいるでしょうが、新聞や小説、学術書などもしっかり読んでいる若者も沢山います。 私は、あなたが私のコメントを素直に受け止めるとは思っていません。おそらく、この文章の言葉遣いに文句をつけるだけでしょう。そして、私のコメントをもとにまたお得意の「若者否定」をするのです。 どうして人は、年を取ると若者を馬鹿にしたがるのでしょうか。 (Nov 6, 2011 06:04:58 PM)
もっと昔の人は、御座候みたいに全部漢字で書いたんじゃないなあ。もっと昔の人は、ございますって女の子しか書かなかったんじゃないかなぁ。
(Jul 1, 2012 11:29:46 PM)
取引先の50代のオバサマがメールに「有難う御座います」と書いてきます。これは私をバカにしているのか?と思ってしまいます。というのも、普段、不具合が多く、そのわりに態度が悪くて、結構摩擦が起きる相手なもので。この漢字の羅列をみると「またまた的外れさん」とイライラしてしまうのでした。
(Sep 7, 2012 03:43:08 PM)
漢字で書いてあるものに違和感を覚え平仮名で書くことを強制する
これは奇妙な話ではないでしょうか 「ございます」を漢字で書けば間違い無く「御座います」であり礼を失していると感じる事が既に間違いであるように感じます 飲み屋の女将の催促状……というくだりも完全に個人の思い込みによるものでしょう それを社内メールで出すという恥 まずは何が正しくて何が間違っているか確認してから行動を起こすようにしてみてはいかがでしょうか (Sep 13, 2012 10:22:49 PM)
センスと常識の問題を論じていることは、よく読めばわかるのだが、この書き込み人は 「強制」 を言いつのり、「間違い」 か否かというところに話をもっていく。
修業が足らんな。 (Sep 20, 2012 07:52:04 AM)
「御座います」は止めなさいというこのブログは、いくつかのリンクから飛んで来られるかたもいて、よく読まれているようです。
若い人たちに繰り返し言っているのは (1) 文書を書くときは一般書籍や新聞の文字づかいに ならおう。「~の為に」とか「~する迄は」と書くのは止めよう。新聞では「~のために」「~するまでは」とひらがなで書いている。 (2) ただし、新聞にありがちな、漢字制限ゆえの不自然な「漢字かな交ぜ書き」は、ならうべきではない。「破綻」を「破たん」と書いたり、「填補」を「てん補」と書いたりするのは、企業内の文書にはふさわしくない。 (Jul 17, 2015 12:06:25 AM)
検索エンジンで単語として検索したいのなら、ダブルクォートで囲わないと単語を検索したことにならない。
最近、年をとった人が検索エンジンを利用する時にダブルクォートで囲わずに単語を検索したつもりになっているのが増えている。そんなデタラメなことは私の感覚だとありえない。 (Feb 19, 2016 08:56:05 PM)
名無しさんが
≪検索エンジンで単語として検索したいのなら、ダブルクォートで囲わないと単語を検索したことにならない。≫ と独り言を書き込んだ。 ちなみにわたしは小文を書くにあたり "ありがとうございます" や "有難う御座います" は欧文引用符で囲んで Google 検索し ヒット件数を調べた。 それにしても、名無しさんの書き込みは、単なる一般論なのか批判のつもりなのか。こんな意図不明瞭な独り言を他人のブログに書くことは私の感覚だとありえない。 (Mar 1, 2016 06:57:45 AM)
YouTubeで自分の日本語の勉強がてら、語源や使い方、意味などを発信していこうと思っています。
御座いますは私も意味を知らず、丁寧に言うには漢字にすればいいと思い使っていて、調べていた時にこのブログにたどり着き、自分が何も考えず使っていたのが恥ずかしくなりました。 ありがとうございます。 これからも参考にさせていただきます。 (Sep 9, 2019 11:29:20 PM)
若い人というより、無知な人なのでは?
筆者は若者コンプレックスなのかもしれないが、それではせっかくの内容も台無しになってしまう。 我々も若い頃があり、今があるのだから、若い人と一括にするのはいただけない。若い人だからこその発想や、適応力による効率化もあるのだから。 若者を尊重できないのであれば、彼らもあなたを尊重しないだろう。その中で生じた若者コンプレックスが、この記事の価値を下げてしまっている。 (Feb 11, 2020 01:17:10 PM)
I'm learning japanese and talking in online chats, and my cellphone auto complete to 御座います and in my mind it looks cool.
But your text was very informative and I will change to hiragana form. ありがとうございます。 (Jun 30, 2021 07:10:40 AM)
嫌味ったらしい文章ですね、こんなメール寄越す上司いやだわ
(Jul 4, 2021 09:50:14 PM)
私は30代後半ですが、中学生の頃から手書きで「有難う御座います」と書いています。
ですからパソコンでもスマホでも、当然「有難う御座います」と変換しないと違和感があります。 私の勝手な決めつけかも知れませんが、学校教育がまともでなかった暗黒の昭和20〜30年代に学校に通っていた気の毒な、いわゆる団塊世代が漢字を書けない、読めないイメージがあります。 (Jan 16, 2023 06:13:18 PM) |
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