ちくま文庫の 『思考の整理学』 の帯の広告文は、けっこうなプレッシャーだ。
≪“もっと若い時に読んでいれば…”
そう思わずにはいられませんでした。
さわや書店 松本大介さん
1986年発売以来の超ロングセラー!≫
今ごろになって 「もっと若い時に読んでいれば……」 と後悔するなんて、イヤだなぁ。
逡巡すること3度。
ある日、平積みになっている外山滋比古(とやま・しげひこ)本をまとめて買ったのが去年の秋。
『ことばの教養』 (中公文庫)
『 「読み」 の整理学』 (ちくま文庫)
『思考の整理学』 (ちくま文庫)
最初の2冊は通勤電車のなかであっさり読んだ。
たまたま 『思考の整理学』 は字が小さく車内読書に不向きで、家で半分読んだところで寝かせてしまった。
さいきん読み終えて、けっきょくあまり後悔せずに済んだのでほっとしている。
「思考の整理」とは?
端的に答えている箇所が122~127ページの 「時の試練」 という文章。
その末尾が心にくい。
≪思考の整理には、忘却がもっとも有効である。≫
≪忘れ上手になって、どんどん忘れる。自然忘却の何倍ものテンポで忘れることができれば、歴史が30年、50年かかる古典化という整理を5年か10年でできるようになる。≫
≪思考の整理とは、いかにうまく忘れるか、である。≫
え? と驚いて、もう一度読み返したくなるところが名文の証拠だ。
*
わたしはもっとタチが悪い。わたしは外山さんと違って、悪人だから。
このノウハウの全貌はぜったいに公表できないのだが、わたしのポイントは 「忘却」 以前のところにある。
世の中の有名人のうち、何篇か読んで 「座標軸が狂っている」 ないし 「信用できない」 「思考がワンパターン」 といった判断に至ると、頭のなかで容赦なく 「ペケ」 をつける。
ペケをつけた人の文章は、原則としてもう読まない。
人生の貴重な時間の無駄になる。
ただでさえ読みたくて読めずにいる本や記事がたくさん積み上っている。
読むに値(あたい)しない可能性が高い文章を、読もうか読むまいかと考えることに1秒も使いたくない。
ペケのリストがあれば、気が楽だ。
その人の文章を読まないことに、何の後ろめたさも感じる必要がない。
*
どういう人をペケのリストに入れるかがマル秘の知恵であり、わたしの 「思考の整理学」。
大前研一さんは、ペケ・リストに早い時期に入れた。
この人がいかに信用できないか、拙著 『中国人に会う前に読もう』 に書いてある。
(ホームページの 「大前研一氏の中国論のちぐはぐさ」 で、だいたいのところは読めますが、できれば拙著のほうをお読みください。いろいろ手をいれてあります。)
養老孟司(ようろう・たけし)さんにも、大きなペケをつけた。
理由は 平成19年7月2日のブログ 「養老孟司さんの文章の厭味」 に書いてある。
こうしてオピニオン誌や新聞・書籍のあの筆者もこの筆者も、頭のなかでペケをつけるが、ぜんぜん困らない。
誰だれをペケのリストに入れてあるかは秘密だ。
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日本経済新聞の中国報道のように、いちおう必ず走り読みするが客観事実以外は一切信用しないという読み方をするものもある。
これもまた 「思考の整理学」 だ。