テーマ:政治について(20107)
カテゴリ:日本の政治
<おことわり>
民主党政権のいう「25%減」とは「35%減」のこと という見出しで議論を展開していましたが、手元の資料に誤りがあり、正確には「35%減」ではなく「30%減」でした。 以下、本文を訂正します。 本日9月16日に、このテーマでコラムを配信していますので、あわせ ご覧ください。 * * 次期首相の鳩山氏が連合国組織に詣でて、首相として約束する勢いの民主党公約は 「二酸化炭素25%減」 と新聞の大見出しにある。 だから人々は、 「ああ、4分の1にするんだな。麻生政権のいう15%が鳩山政権では25%になるんだな」 という印象をもつ。 じつは民主党の公約は25%減ではなく、「30%減」なのである。 ■ ひょっとして、魔球? ■ 麻生政権が11年後に達成しようとしたのは、2005年比で15%減。 1990年比では8%減だ。(「5%減」 と書いてある資料もある。) いっぽう、民主党のいう 「25%減」 は1990年比の数字。 2005年比では 「30%減」 である。 つまり、自・公政権 ⇒ 民・社・国政権の温室効果ガス削減公約比較は 8% ⇒ 25% または 15% ⇒ 30% という数字で論じなければならない。 こう言われれば、さすがに民主党公約のすさまじさが分かるだろう。 11年間でこれを達成しなければならない。2020年の目標値なのだから。 麻生政権の言っていた線なら国際合意は可能だが、鳩山政権の線に米国は絶対についてこない。 鳩山公約の 「30%減」 は、 「他国がこの線についてくるなら」 という但し書きがついている。 温室効果ガス削減の国際合意つぶしを狙った魔球だとしたら、脱帽するしかない。 ■ 経産省系の研究所は 「問題外」 と ■ 政府系の研究所は、温室効果ガス削減目標について研究してきた。 環境省系の国立環境研究所は、民主党公約の 「2005年比30%減」 もぎりぎり実現可能と結論づけていると聞くが、その前提条件についてわたしはまだ勉強していない。 経産省系の日本エネルギー経済研究所は、麻生政権のいう 「2005年比15%減」 はぎりぎり達成可能とみたが、「2005年比25%減」 は達成不可能と結論づけた。 民主党公約の 「2005年比30%減」 はとても達成不可能と考え、計算すらしていないそうだ。 * このすさまじい目標の達成のためには、国家予算の構成を大々的に変えなければならない。 上策、中策、下策、そして論外の策がある。 温室効果ガス排出削減というと、太陽光発電、風力発電の推進というイメージがあるが、牧草地も土漠もろくにない日本では発電所建設地を妥当な価格で大量に確保するのはむずかしい。 民家の屋根に太陽電池を設置しても、産業用の電力まではまかなえない。 風力発電に適したところは風光明媚で、国立公園のなかだったりする。 ■ 今後10年間に原発10基建設 ■ ではどうすればよいかというと、上策は何といっても原子力発電所の建設だ。 原子力発電所は発電の過程で二酸化炭素を発生させない。 いろいろな施策と併せ、原発を10基つくれば麻生政権の想定目標 「15%減」 は達成できる計算だった。 あわせて、原発の定期検査の頻度も西欧諸国並みにして設備利用率を向上させれば申し分ない。 ところが、民主党の公約は「15%減」でなく「30%減」である。 では原発を30基作るか……。 2020年までに原発10基建設というのも非現実的だから、それ以上の数字を言っても意味がなかろう。 ■ 高効率のガスタービン発電 ■ 原発と並んで決め手となるのが、火力発電所の高効率化だ。 同じ電力を作るのにも、設備の効率が高ければ燃料が少なくて済むから二酸化炭素が減る。 熱効率の高い発電設備の製造でも、日本は世界の最先端を走っている。 1950年には最先端の発電設備でも熱効率は20%以下だった。 それが1960年には30%に達した。 1995年にはガスタービン+廃熱利用発電で熱効率は55%に達し、現在の最先端の設備はガスタービンの耐熱温度を上げることにより出力アップを図り、熱効率は60%だ。 ガスタービンの入口の温度を高くすると、出力は上がる。 現在使われている最先端のガスタービンは、入口温度が1,500℃である。 金属をそのまま さらすと融けてしまう。高度な冷却技術が使われている。 入口温度1,600℃の設備の開発が完了したと聞いたときは、頭がくらくらするほどの喜びをおぼえたが、日本の技術者はすごい、 今や、入口温度1,700℃のガスタービンの開発を目指している。 このガスタービンをつかい、さらに固体酸化物燃料電池(わたしは勉強不足でこの技術を説明できない)を組み合わせると、熱効率は70%を超えるというのが専門家の計算だ。 ■ 低効率発電所をスクラップ ■ 麻生政権の公約レベルであれば、老朽発電所の代替としてこのような最新鋭発電所を建設すれば達成できた。 鳩山政権の極端な公約を達成するには、現在十分に稼動中の発電所も熱効率の低い順に続々と最新鋭設備に入れ替える必要がある。 当然、そのコストは電力料金に上乗せされるが、少なくとも民主党に投票した人たちは文句を言えない。 * 中策が何かといえば、二酸化炭素の分離・回収・貯留だ。 わたしの勤務先も目下この技術開発に関わっている。 技術の開発は、いろいろ想定外の副産物を産む可能性があるから意味があると思うが、実際に大規模な二酸化炭素貯留に乗り出すことにわたしはまだ賛成しかねている。 ■ 二酸化炭素回収・貯留技術への抵抗感 ■ 発電所の排気 (二酸化炭素が多い) を特殊な溶液に通して、二酸化炭素を溶液に吸収させることにより回収する。 集めた二酸化炭素はパイプラインなどで適地に輸送し、深海や地中に閉じ込める。 結構じゃないか、と思われるかもしれないが、これをやるには大量のエネルギーが必要だ。 半端じゃない。 100の電力をつくる発電所で二酸化炭素回収・貯留を行うと、100の電力のうちじつに20~30の電力を二酸化炭素回収・貯留のためだけに消費する。 もしかりに二酸化炭素の増加が本当に地球温暖化の原因なら、それも良かろう。 しかし現実には、地球温暖化の原因が本当に二酸化炭素など温室効果ガスの影響なのかどうか、実証した科学実験はない。 もし仮に、二酸化炭素の増加が必ずしも地球温暖化の原因ではなかったとすれば、どうだろう。 二酸化炭素回収・貯留は、限りある貴重な化石燃料をいたずらに20~30%浪費して大気中に大量の余分な熱をまきちらし、環境規制の範囲内とはいえ様々な汚染物質の排出を20~30%上増しするだけ、なのかもしれない。 ■ 排出権取引は日本経済を萎縮させる ■ 下策は、排出権の購入だ。 排出権取引に、わたしの勤務先も関わっている。 担当部長が、わたしのかつての同僚である。 愚かな政府のもとで生きる道を確保する準備をするのも、私企業としてはやむを得ないのかもしれないが、排出権取引で「30%減」の目標を達成しようというなら、下策と評する他はない。 排出権取引で中国やロシアのような専制国家へ支払うであろうカネは、日本経済に何らのメリットももたらさない。 日本国内の貨幣の流通量を萎縮させ、日本の国力が衰えるだけだ。 ■ 地球をイメージする ■ 論外の策が、日本にある製造工場の他国への移転だ。 日本で二酸化炭素を吐けぬなら、他国に行って吐けばよい、という議論があると知って唖然とした。 地球規模で見れば、二酸化炭素排出は減らない。 いや、むしろ、他国でいい加減な製造設備を稼動させたら、二酸化炭素の排出は却って増えるだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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