テーマ:政治について(20109)
温室効果ガスの削減目標。米国は今どういうレベルを考えているだろうか。
10月2日付 『電気新聞』 の1面記事によると、2005年→2020年で17%削減というのが米国下院の案。 上院の “環境派” 議員が 「20%削減」 に持っていこうとしているが、反対論が噴出している。 米国の内政の最優先課題は医療制度改革だから、温室効果ガス削減のために国富の大盤振舞いをするつもりはないのだ。 小沢鳩山政権が、国会に諮ることなく与党の一存で打ち出した国際公約は、 ・ 2005年 → 2020年で 「30%削減」 (1990年比なら25%削減) ・ ただし、他国もこのレベルについてくることが前提 というもの。 迷走する鳩山政権に明確にしてもらいたいことがある。 米国の削減目標が17~20%にとどまるとき、日本の目標はどう設定するのか? 30%なのか? 中国に対しては、いかなる削減目標を要求するつもりか。 麻生政権が掲げた目標は、 ・ 2005年→2020年で「15%削減」 ・ 他国が掲げる目標レベルによってブレることはない というものだった。 ■ 大平原はカネでは買えないが ■ CO2の30%削減のために、風力発電と太陽光発電がどのくらい頼りになるのだろうか。 「30%削減」の目標のうちの6分の1 (つまり5%削減分) を風力発電と太陽光発電でそれぞれ達成するには、どのくらいの土地と手間が必要か、計算してみたい。 日本が出す温室効果ガスの34%が火力発電所から出ている。(中部電力サイト をご参照) 高効率のガスタービン発電を採用して火力発電所の発電効率を劇的にアップさせるのが、ここ10年単位でできる現実路線だと前に述べた。 その話をひとまず措(お)いて今日は、火力発電の発電量の 5/34 相当を風力発電と太陽光発電でそれぞれ発電することを考えてみよう。 ■ 930億キロワット時の発電量 ■ 平成20年度、日本の電力会社が発電・受電した電力量は、9,720億キロワット時だった。 うち火力発電が 65%を占める。 (原子力発電が26%、水力発電が8%、地熱・風力・太陽光などが1%) つまり、火力発電で 6,320億キロワット時の電力量が確保され、それによって日本の温室効果ガスの34%が排出された。 ということは、 6,320億キロワット時×5/34 =930億キロワット時 を風力発電で発電し、その分だけ火力発電所を閉じれば、日本の温室効果ガス排出は5%減る。 ざっくり言えばそういう計算になる。 年間に930億キロワット時を風力発電で発電するには、どのくらいの数の風車か。 ■ 17,600基の観覧車を建てる ■ かりに発電設備が 24時間、365日、フル稼働できるとすれば、計算はこうなる。 930億キロワット時 ÷(24時間 × 365日)= 1,100万キロワット。 現在、日本で実用化されている最大の発電用風車は、2500キロワットの設備容量だ。 遊園地の観覧車くらいデカいが、これを 4,400基立てればよい、だろうか? (1,100万 ÷ 2500 = 4400) 実際にはそれでは足りない。 前号で見たとおり、発電所は点検・保守で止めねばならぬときがあるし、風力の場合はまさに 「風まかせ」 だ。 風力発電の設備利用率は約25%、つまり年間フル稼働の25%相当の働きしかできない。 だから、930億キロワット時の発電量を確保するためには、4,400基の4倍の風車が必要だ。 つまり 17,600基ということになる。 2500キロワットの風車は、どのくらい大きいのか。米国GE社の風車の資料 がある。 風車の直径は100メートル。つまり羽根の長さは50メートル近い。 タワーの高さは75メートルから100メートルの範囲で選べる。 75メートルのタワーに直径100メートルの風車をつければ、もっとも高い地点は地上125メートル。 まさに、17,600基の観覧車を日本全国に建てたようすを想像していただければよい。 ■ 風車1基あたり0.3 平方キロの空き地が必要 ■ 風車をびっしり密集して設ければ、よいではないか…… と、考える方がいるかもしれない。 風車を1基立てただけで、気流は乱れ、減速する。 高価な風車の性能が十分に出るようにするには、 横方向に風車直径の3倍(300メートル)、 縦方向に風車直径の10倍(1キロメートル)の空き地を確保する必要がある。 つまり、2500キロワットの風力発電のために 0.3平方キロメートルの空き地の確保が必要だ。風向きが変わることを想定すれば、必要面積はさらに広がる。 この空き地では風車の風切り音がし、低周波騒音もあるから、住宅地としてはまず使えない。 (太陽光発電用地としては、大いに使いでがありそうだ。) 17,600基の風車を立てるには、5,280平方キロメートルの空き地が必要だ。 ■ 与野党の政策合意が前提だ ■ 課題は2020年までに17,600基の風車を立てること。 日本の数万ヶ所で年間12ヶ月を通した風況調査観測を実施して、風車を立てる適地を選び、必要な空き地を確保する交渉を全国で行わなければならない。 限られた時間でそれを行うのが、どんなに大変か。 10年間に17,600基ということは、1日に7基の割合だ。 (1年に 250日働くものとして計算。) 1日に7基ずつ日本のどこかで観覧車を建てているという光景を想像していただきたい。 2019年になって突然17,600基の風車を発注しようとしても、製造能力が追いつかない。 今後、与野党が入れ替わっても政策が変わらないという安心感を製造メーカーに与えて製造能力を拡大させ、2013年ごろから大量分割発注だ。 それが達成できたとしても、小沢鳩山政権の公約値のやっと6分の1を満たすにすぎない。 ■ 10年間で2,400万戸の民家の屋根に太陽光パネルを ■ 太陽光発電の場合はどうだろう。 同じく 930億キロワット時の発電量を確保するには、どのくらいの太陽電池が必要か。 太陽光発電の設備利用率は15~16%ていどだ。夜には発電できないし、曇りや雨では発電量は落ちるから。 計算すると、 930億キロワット時 ÷ (24時間 × 365日)÷ 15% = 7,100万キロワットとなる。 日本では、「土地代ゼロの設置場所」 として、民家の屋根が使われてきた。日本の民家の大きさを考えれば1戸あたり20平方メートルほどしか設置できない。 1戸あたりの発電能力は3キロワットほどだ。 7,100万キロワット ÷ 3キロワット= 2,400 万戸 という計算になる。 10年間でこれを達成するには、1年間に240万戸、1日に 9,600戸の民家に太陽電池を設置せねばならない。 戸別の事情に合わせて架台(がだい)をつくり設置するわけだから、太陽電池メーカー全国の鉄工所や工務店への特需となる。 (企業トップが小沢一郎氏と親しい京セラのようなメーカーへの特需となるのも、言うまでもないが。) 民家の屋根に ちまちま設置するとなると、架台代・工事代も膨らむ。 太陽電池代+架台代+工事代が 「普通の家で200万円ぐらいする」 と 10月10日付の日経の土曜別刷り5面に書いてあった。 2,400万戸 × 200万円 = 48兆円と必要経費が計算できる。実際には大量生産効果で費用はぐっと下がるだろうが。 ■ 日本の休耕地は3,900平方キロ ■ 実際問題としては、民家の屋根は太陽電池の設置場所としては薦めにくい。 個別工事のコストがバカにならないし、保守・点検も面倒だ。だから、広い平原地が確保できる欧米諸国では、民家の屋根への設置はほとんどない。 日本に空き地はないのだろうか。 日本の休耕地は39万ヘクタール = 3,900平方キロメートルだ。(科学ニュースあらかると の記事をご参照。) 固定資産税の補填や、農地所有者への補償金など、新たな政策を考える必要があるが、わたしは休耕地転用のほうが現実的だと思う。 「休耕地」 は農業が営まれた場所だから、農業用水が確保できる。 太陽電池は、砂埃がつくと発電効率が落ちるので、一定の頻度で洗ってやる必要がある。 (砂漠・土漠を太陽光発電に利用するのがそう簡単でないのは、洗浄水確保のコストが高い点にある。) 休耕地転用であれば、洗浄水も確保できるから合格だ。 ■ 広大な太陽光発電所「メガ・ソーラー」■ 実験的にではあるが、日本各地で 「メガ・ソーラー」 と呼ばれる広大な太陽光発電所の建設も始まっている。 川崎市役所と東京電力が共同で川崎市の東京湾埋立地に建設する2万キロワットのメガ・ソーラーがある。 (東京電力の完成予想図つきの資料 をご参照。) それによれば、約 0.34 平方キロメートルの土地をつかい、約 0.3 平方キロメートルの太陽光パネルを設置する。 フル稼働時の発電能力が2万キロワットで、年間の発電量として 2,110万キロワット時を想定している。設備利用率を12%と おいている。 これと同じ発電所を全国に作って、930億キロワット時の年間発電量を確保するには、 930 億kW時 ÷ 2110万kW時 × 0.34平方km = 1,498 平方km と計算できる。 日本の休耕地の4割に相当する面積だ。川崎市のこのメガ・ソーラーを4,400ヶ所つくる計算。 10年間でこれを達成するには、1週間に8~9ヶ所つくる勢いで取り組まなければならない。 適地を探して交渉するだけでも、気の遠くなるような労力のはずだ。 ■ 原発建設が、いかに現実的解決か ■ さきほど、2,400万戸の民家の屋根に太陽光パネルを設置するのに単純計算では48兆円必要だと述べた。風力にせよ、太陽光にせよ、鳩山政権の公約の6分の1を達成するために、10年間でそういう桁のカネがかかるということだ。 カネの問題はさておき、問題は、1ヶ所あたりの発電能力が小さいから、数をこな さなければならないこと。 2,400万戸の屋根だの、観覧車 17,600基だの、メガソーラー4,400ヶ所だの、およそ人間業(にんげんわざ)で10年間にこなせる数を1桁上回っている。 * 年間930億キロワット時を原子力で発電しようとしたら、 930億キロワット時 ÷ (24時間 × 365日)÷ 70% = 1,500万キロワットの設備があれば十分だ。 最新鋭の原子力発電所10基分である。5ヶ所の用地を確保して2基ずつ作れば達成できる。 地元への補償金込みで10兆円も注ぎ込めば、完成する。 ■ 洋上風力発電所の壮大な構想 ■ 長さ 1.9キロメートル、幅 70メートルの自力航行可能な巨大なイカダを洋上に浮かべ、これに 5000キロワット用の巨大風車を11基設置して、洋上風力発電を行うという壮大なアイデアもある。 (国立環境研究所の資料 をご参照。完成予想図つきだ。) 季節ごとに、台風を避けつつ最適の風を求めて、日本の排他的経済水域を動き回る風力発電所だ。作った電気は直接には送電できないから、海水を電気分解して水素を作る。水素は、燃料電池の燃料として使える。 巨大イカダは定期的に日本の港に寄って、受け入れ施設に水素を渡す。 まだ模擬設計の段階だし、電気分解して作った大量の水素を洋上航行中にどう蓄えておくかなど、課題も多いから、2020年の公約期限には間に合いそうにない。 しかし、2400万戸の民家の屋根に太陽光パネルを設置するのに比べれば、ずっと現実味を感じるプランだ。 20年先を見据えて、国家の大計として取り組むべき夢だと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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