テーマ:美術館・博物館(1556)
カテゴリ:美術館・画廊メモ
東京国立博物館 (上野) の平成館。長谷川等伯展 が大人気だ。
3月11日(木)に午前半休して行ってみたら、入場は80分待ちだった。 とても時間がなく、本館1階の常設展を楽しんでから係の方と話したら 「等伯展も後半に入り、お客さまが増えております。金曜夜は8時まで開館で、比較的入りやすいようです」。 12日(金)の夜6時40分。等伯展にはすぐ入れた。 人垣から垣間見る名作の数々。 そしてその夜、すばらしいことが起きた。 ■ 国宝切手 「松林図」 ■ 長谷川等伯 (1539~1610) の名と国宝 「松林図屏風(しょうりんず びょうぶ)」 は、小学校4年生のときから覚えがあった。 種明かしをすると、昭和44年7月21日に 「松林図」 の国宝切手が発売され、父が1シート買ってきて 「だいじにせぇよ」 といって、切手を集め始めたわたしにくれたからだ。 ちなみに当時は、記念切手が値上がり期待の投機対象とされていた。父がシート買いをしたのも、そのせい。 シートで収集帳がたちまち埋まるので邪魔っけに思い、4つ折にしたらこれが見つかり、しこたま叱られた。 妙な因縁のある 「松林図」 である。 切手の小さな画面ではさすがに、等伯の躍動する筆遣いまでは伝わらない。単なる枯淡の水墨画と思って、きょうまで来た。 ■ 国宝に囲まれて ■ 今回、等伯展をみて、そのオールマイティーぶりに感嘆した。 装飾性ゆたかな仏画にはじまり、近代精神の感じられる写実的な肖像画、華麗で優しい金碧画、筆致自在の水墨画。 国宝 「松林図屏風」 は、第2会場の最後のコーナーにあった。 幾層にもわたる人垣が、ひとしく松林の霧の世界にひきこまれている。 わたしも人垣のあいだを少しずつ前に進みながら、右から左へ歩き、またもう一度右から左へ。 堪能して時計をみたら、閉館まであと7~8分の時間があった。 いまひとつの国宝 「楓図壁貼付(かえでず かべはりつけ)」 をもう一度見に、第1会場へ戻った。 先ほど見たときは人垣で全体を眺め渡すことがかなわなかったが、さすがに閉館5分前である。第1会場の人はまばらで、7~8名の愛好者が名品と別れを惜しむように見入っていた。 そこにわたしも加わった。 しっとり華やいだ 「楓図」 の左には、これまた国宝の 「松に秋草図屏風」。こちらは雄渾な筆遣いだ。 ■ そこに、おられた ■ 国宝に囲まれるようにして過ごす数分間。時計を見ると8時を過ぎているようだが、閉館のアナウンスもない。 国立博物館も粋な計らいをしてくれるものだと思いつつ、「楓図」 の真正面に立って見入っていた。 ふと右を見た。 わたしから5メートルほど離れたところに皇后陛下がおられ、若手の学芸員の説明に静かにうなづいておられた。 ほんらい皇后さまがお立ちになって楓図をご覧になるべき絶好の場所に自分がいることに気づいた。 はっとしてすぐ後ろに下がり、ご一行からやや離れたところに行き、皇后陛下の後ろ姿を拝見していたが、皇后さまは先ほどの位置からすぐには動かれなかった。 学芸員が早く楓図の中央までお導きすればよいのにと思い やきもきしていたら、やがて皇后さまは斜めに歩きながら屏風の中央に近づかれ、いつくしむような眼差しで眺めておられた。 ふと、見物人のような自分を恥じてその場を離れ、第1会場を逆方向に戻ると、もう観覧者はひとりふたりほど。 重要文化財の 「千利休像(せんのりきゅうぞう)」 や、同じく重文の 「山水図襖(さんすいず ふすま)」 と、一対一で対面し、心ゆくまで味わった。 皇后陛下にいただいた至福の時間である。 ■ 一般客も8時20分まで ■ 閉館時間を15分過ぎたころ、係のひとから 「第1会場を閉めさせていただきます」 と伝えられた。 第1会場を出てみると、第2会場の入り口も閉められていた。なかに皇后陛下ご一行がおられるのである。 図録を買ったりして8時20分になり、ちょうど第2会場の出口付近を通ったら、最後の一般客が10名ほど出てくるところだった。 8時20分まで「松林図」などの名品と語り合えた人たちだ。 第2会場の出口もようやく閉められ、係の人たちが 「お帰りは平成館でなく本館の出口経由で」 と促す。 本館展示場を抜けて本館正面を出たとき、白バイに先導された車が数台、すべるように走り去るのが見えた。8時半だった。 ■ 皇后さまのお人柄ゆえ ■ 皇后陛下と博物館の皆さんにいただいた幸せな時間に感謝しつつ、上野公園を歩いた。 「楓図壁貼付」 をご覧になる皇后さまを思い出していた。 あのとき、博物館の係のひとたちが一般客に声をかけて、場所を空けさせ、皇后さまをすばやく楓図の真正面にお導きすることもできた。 端的にいえばあの段階でわたしを含めた一般客を全て退館させることもできた。 すでに閉館の8時を過ぎていたのだから、文句の出ようはずもない。 じっさいに起きたことは、ご紹介したとおり。 随行員も博物館の人々も、 皇后陛下 の控えめなお人柄と謙遜なお考えを知りつくしているからこそ、あえてあのようにお計らいしたのだろう。 われわれは、すばらしい皇后陛下をいただいた。 「長谷川等伯 没後400年特別展」は、東京国立博物館で3月22日まで開催。 http://www.tohaku400th.jp/ 3月15日(月)は休館。22日(月)は祝日なので開館。 火曜~木曜は午前9時半~午後5時。金曜は午前9時半~午後8時。土・日・祝日は午前9時半~午後6時。入館は、閉館の30分前まで。 その後、京都国立博物館で4月10日から5月9日まで開催の予定です。 http://tohaku.exh.jp/ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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