去年12月19日からやっている映像展覧会。5月15日の土曜午後に行ったら、ちょうどいい人の入り。
私邸の一角という趣の、こぢんまりしたスペースなので、始まった頃は人出でたいへんだったろう。
ヤン・フードン こと 楊福東(よう・ふくとう)氏は、昭和46年に北京の生まれ、上海在住のアーティスト。
彼の映像イベントを5月23日までやっている。
1階の Gallery I “後房 ― Hey, 天亮了”(平成12年)
男4人に剣を持たせて京劇の所作で街を行かせる。素人映画っぽいが、腕がこちらに飛び出して来そうな迫力。自ずと生まれる諧謔。
Gallery II “将軍的微笑” (平成21年)
この部屋は、いい。いつまでも居たくなった。
入り口正面に Smile と虹色のネオンサイン。
長いテーブル面(4画面連続)は延々と洋食パーティー。
テーブル周囲に天井から12面のヴィデオ・スクリーン: ソフィスティケートされていないナマの女性たちが、微動しつつ、あるいは跳ね踊りつつ、ナマめかしい。
壁面に、老人を撮ったモノクロ4面。微風に吹かれる女性のモノクロ1面、女性と老人の静止画2面。
右の壁面では老将軍が延々とインタビューに答え、左の壁面では老人が賛美歌をピアノで弾き、それらが空間の基調音声となっている。
さんざめきやがて哀しき人の粋(いき)。
2階。 Gallery III “半馬索”
黄土高原のどうしようもない貧困の径を引かれる馬。
Gallery IV “<竹林七賢> 之三” (平成17年)
1時間ちかい映画。時間がなくて、ラストシーンだけ見た。
水を張った棚田で黒い牛が斧の刀背(みね)で殴り殺され、やがて全裸の女性ふたりが静止した男たちを抜けてこちらにやって来る。
Gallery V “<青麒麟>之一” (平成20年)
山東省の採石場。9つの横長画面で荒涼たる光景を。5つの縦長画面で5人の労務者を延々と。
この美術館は小さいけれど、常設のインスタレーションが贅沢。
奈良美智さんの My Drawing Room というアトリエ人工空間。
須田悦弘(よしひろ)さんの 「此レハ飲水ニ非ズ 『椿』」は、壁に埋め込まれた電線から伸びた枝の椿と、黒い石の床の椿が、眼底に残る。
Jean-Pierre Raynaud さんの L'Espace Zero は究極の無用を体現した白黒タイルの空間。
いい日に、芝生に面した中庭のカフェテラスでゆっくりワインを傾けて坐りたい、原美術館。