親の年金をかすめ取るために葬式もあげずに生存を偽装し、それが見つかると 「部屋に入ったまま出て来ない」 とか 「行方不明だ」 などと、いけしゃぁしゃぁと言ってのけるとは、こいつら日本人か!? と、脳内で叫び声がした。
いずれの国にも詐欺者は、たんといる。日本にこういう詐欺があって、なんの不思議もない。 それなのに脳が 「こいつら日本人か!?」 と叫びをあげたのは、典型的 「日本人」 のあり方としてぼくが無意識に農村の住人を想定しているからだろう。 農村の相互扶助・相互監視のイメージのなかでは、この種の 「偽装生存」 詐欺は起こりえなかったし、だからこれまでの日本の行政から見れば 「想定外」 なわけだ。 ことの成り行きを見て、妙なところで日本健在(?)ぶりを感じたのは、「偽装生存」 詐欺のことを一向に犯罪扱いせず、詐欺者たちのおとぼけに大真面目で付き合う (フリをする) 日本社会だ。 やがて犯罪と立証されるだろうし、そういうなった途端にニュースの扱い方も手のひらを返したように変わるだろう。 最終的には行政通達が出されて、年金受領者の生存確認を制度化するところまで行ってもらわないと、ぼくの気持ちも収まらない。 * あぁ、日本だなぁ、と感じたもうひとつの事例は、天皇陛下から横綱白鵬へのお祝いと励ましの伝え方だ。 これが米国大統領であれば、大統領直筆の署名入りの手紙が横綱個人宛に発出されるだろう。 だが、日本で天皇陛下の御名入りの手紙が個人宛に出されるものではない。 だから、書簡の発出者は宮内庁であり、その宛先は日本相撲協会となった。組織から組織あてだ。 白鵬関は、書簡のコピーを受け取った。 かたちを守りつつ、こころは確実に伝えられた。 『北國新聞』 コラム 「時鐘」 平成22年8月4日 ≪千秋楽の悔し涙が報われたことになる。快挙を達成した横綱白鵬に、天皇陛下がお祝いと励ましの書簡を届けられた。 異例のご配慮だという。 3場所連続全勝優勝は史上初である。47連勝という歴代3位の記録も達成した。 が、野球賭博問題で、取組は生中継されなかったし、天皇賜杯授与も自粛された。 無念の涙を流した横綱に、陛下は心を寄せられた。 白鵬が抜いた横綱大鵬の連勝記録は、「誤審」 で止まったとされている。 土俵際の微妙な攻防が黒星と判定された。周囲は同情したが、大鵬は 「横綱が物言いのつく相撲をとってはだめだ」 と自分を責めた。 そんな横綱の姿を、白鵬は手本にする。 土俵の外の騒ぎに目を奪われて、相撲ファンは孤軍奮闘する横綱の志をどれだけ知ろうとしたのだろうか。陛下のご書簡は、そんなことも問い掛ける。 場所前も場所中も、親方や力士が謝罪した。 が、涙を流して出直しを誓った人は、何人いたのだろうか。 不祥事のたび、深々と頭を下げる光景を見慣れて久しい。空々しい陳謝に鼻白むことも増えた。 だからこそ、本物の悔し涙にまで、鈍感ではいたくない。≫ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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