カテゴリ:美術館・画廊メモ
金曜日の仕事帰り、1時間45分で1~2階の会場を超スピードで鑑賞した。
写真部門に充足感を感じた。絵画的構成のみごとな写真作品が乱舞する。絵画以上の想像喚起力。 2階の絵画作品を順路と逆向きにたどっていたら会場入口近くに、渦のように吸引力のある緑の瞳があった。少女の顔の周りに蝶と花をふんだんにちりばめ、瑞々しい生にあふれた装飾画。 おもむろに作者の名を見たら、あの工藤静香さんだった。 一般応募作として特選をとっていた。 * 絵画と彫刻部門ではメモをとらなかったので、絵葉書を買った4枚のことを書く。 総理大臣賞の宮村 長さん 「神さまがお怒りおはせしか、老いておはせしか」 : 作品の意図が不明確で、いらいらする。単なる装飾画として鑑賞したらバカを見そうな作品。 画面中央にはためく日章旗。赤い円は固定固有の位置を占め、白地は揺らぎくすみ果てている。周囲に風神・雷神・雨神、左下に貧相な富士山、中央下にはめらめらした紅色を背景に ふぎゃっと大なまず。 国旗をおちょくるような意味ありげな題名のこの作品に総理大臣賞とは、なんというブラックユーモアだろうか。 主催者のアイロニーに脱帽したいが帽子がない。 宮村 長 氏におかれては、総理大臣賞などあざ笑って辞退されれば首尾一貫したろうに。 文田哲雄さん 「娘たち (雲・時)」 : 船の甲板(かんぱん)上の白昼夢と形容しよう。 6人の若い女性が遠く近く、異なるポーズで。主役は手前に坐る黒い帽子の女のはずだが、すぐ後ろにバックダンサーのように動きのある娘がいて、うつくしい胸と脚をはだけてひときわ存在感がある。 あたかも幻想劇の一場面のようだ。 女性の顔の描き方など必ずしもぼく好みでないのだけど、構図のちからに圧倒される。 鶴岡義詮さん 「影」 : 数少ないヌード画。肉感を存分に保ちながら、紺とグレーの装飾画に仕上げてある。 女の謎を解くのに長い時間がかかるように、この絵の謎も闇の向こうにあるようだ。 吉井 浩さん 「横並びの6人」 : ウィスキーグラスのような頭のキャラはロボットめく。 赤を基調に白・黒・緑をかすれ散らした彩色は、一種メタリックでありながらまぎれもなく生なましい筋肉。 このキャラは、見る者の脳にあがり込んだが最後、平然と居座りつづける。 パワフルだ。 * デザイン部門でおもしろかったのは、杉本洋一さんの立体ポスター。 惑星をつくる神々の工場だ。 真鍋 博さんのイラストの世界を連想させる美しい色彩と、ファンタジー感を支える丁寧な手仕事。 イラストで印象に残ったのは、望月勉さんと稲谷直弓さんの作品。 望月さんのは、よくありそうな一筆書きふうの人物画だが、色づかいが絶品。 人物の髪は極彩色、背景は緑と赤をじつに淡く配合して、これはありそうでなかなかない出来ばえだ。 稲谷さんのは、呆けた少女を海老茶色で描いたペン画。 一見ありふれているが、ネオテニー感覚で描いたピアズリーとぼくは形容したい。 * 写真部門は、欲しくなった作品がいくつかある。 1万5千円もする図録には住所録がついていた。作者に葉書を書けば1万円ほどでプリントを譲っていただけるのではないか。際限なく注文してしまいそうで、怖い…。 朝倉玲子さんの 「路地裏」 は、モロッコのフェズかカサブランカか。 画面に左から歩き入る緑のケープの女性が上半身だけ、くっきりと陽光を受ける。躍動感。 地面はレンガ敷き。路地の壁面は、高さ2.5メートル辺りまでまばゆい水色で、そこから徐々に白く塗られる。 いろんな舞台道具が、監督の一声で一斉に生かされたような瞬間。 渡辺隆夫さんの 「バレリーナの不安」 は、そのまま油画にしたくなる女性の横顔が、薄い闇に浮かぶ。 高木 寿さんの 「魅惑」 はインド女性か。長い髪が左目を覆う。右目の表情のなんと妖艶なことか。 伊藤繁雄さんの組写真 「藝人」 は、金粉を塗った男の両手、斜め横顔、背から腰。 それぞれの肉の表情が際立つ。 白石志津子さんの組写真 「カルメンのバラ」 は、枯れくすんだ色の薔薇の花々。これが魅惑的なのである。 薔薇こそ花の王者なりと感得させられる絵画的作品。 二科会写真部の創立会員である大竹省二さんの 「紅雀」 が展示筆頭。 なんというみずみずしさ。 ロシア女性だろうか、明るい含み笑いの目が美しい。口元を隠すのは、手のひらに載った紅雀だ。 忘れられない作品である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Sep 4, 2010 08:50:12 PM
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