カテゴリ:美術館・画廊メモ
今月の銀座界隈の画廊展でいちばん楽しみにしていたのが、銀座一丁目 Gallery 156 の “My favorite works” 展だった。
案内葉書の絵にひかれた。 懐妊の姿かと思われる女性のセミヌードで、左手の指をそろえて胸元に当てたところが光り、宗教性を感じる。 一見したところ無表情のように見えるが、じっと眺めているとふてぶてしいまでの強さを感じさせる。 ハイパーリアリズムの油画と思われた。 闇を背景にメタリックな布をまとった女性はほとんどモノクロで、しかし瞳はあざやかな緑色、くちびるの薄紅色にはみずみずしい精気があり、右耳のすぐ上に群青色のアクセサリーをつけている。 ミステリアスな美しさ。こういう美に、ぼくはとろけてしまう。 画廊をたずねると、展示を企画した画家の中村亮一さんがおられた。 この案内葉書はたいへん好評で、もう1枚も残っていない、と言われた。 作品は想像より小ぶりで、しかも写真を絵画的に加工したインクジェットプリントだった。(案内葉書をよく見れば、サイズもインクジェットプリントであることも書いてあったのだが。) “Waiting for Sol Invictus” 「無敵の太陽を待ちつつ」 という題名は、この女性が聖母マリアのイメージの延長上にあることを示している (…というのが、ぼくの解釈。こういうところでラテン語の知識が役立つ) 。 作家は、昭和58年にポーランド南西部のヴロツワフ市に生まれた マルタ・スクウォドフスカ (Marta Sklodowska) という20代後半の女性。 あぁ、ポーランドは思い入れのある国だ。 値札は9万円。このまま2度とこの作品に会えなくなったときの後悔の深さを想像し、購入を即決した。 中村亮一さんに、スクウォドフスカさんとどういう縁があって今回の企画展につながったのか、たずねた。 今回、中村さんが選んだのは4人の作家。 人間に向き合うスタンスにどこか共通する一線をイメージしつつ、ドイツの写真展などに出品された多数の作家の作品を見比べつつ絞り込み、スクウォドフスカさんを選んだのだという。 ネットで彼女のサイトを見たら、しびれるほどいい作品であふれている。 こうしてご縁がつながって、よかった。 今回の企画展ではほかに、 昭和53年ドイツ生まれの Wolfgang Ganter さんの合成写真作品、 昭和42年大阪生まれ、沖縄育ちの儀保克幸(ぎぼ・かつゆき)さんの木彫、 昭和57年東京生まれのナカムラ・リョウイチさんの油画。 儀保さんの木彫 「子供の頃の夢をみているの」 に、たましいが吸い込まれそうなほどの安らぎを感じる。 ナカムラ・リョウイチさんの作品は、米国西海岸の一光景かと思う少女と男児の質感・存在感、工事現場の労務者のまるでシルエットのような静けさ、そして謎解きを迫る不思議な水浴の子供らと浮遊するシンボルたち……。 ぼくなりの謎解きをご披露したりしていたら、なんとこのナカムラ・リョウイチさんとは、展覧会を企画した目の前の中村亮一さんその人のことだった。 (“My favorite works” 展は9月29日まで、銀座一丁目5-6 福神ビルB1Fの Gallery 156 で。) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Sep 23, 2010 11:38:36 PM
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