カテゴリ:美術館・画廊メモ
本館の 「平常展」 が 「総合文化展」 と名を改めた。展示替えもしっかり行っているし、特別陳列コーナーもおもしろく、とにかくお宝ぞろいだから、閑散としているのがいつも残念だったが、1月はお宝特別公開を PR してお客も多い。
じつは1月2日午後に行ったらチケット売り場に長い列がとぐろを巻く盛況ぶりだった。きょう1月9日は適度の入りである。 雪舟等楊(せっしゅう・とうよう)筆の国宝 「秋冬山水図(しゅうとうさんすいず)」 は国宝切手や日本史教科書でおなじみ。 あらためて見ると地味な絵で、しかもたいへん小ぶり。 技巧をつくした壮大な山水画は後世いくらも出てきたが、この作品の寒空は雪舟がこれを氷壁のように物質化して描いてみせた。その思い切りが今日に至るまで独創として高く評価されつづけているのだろう。 国宝 「古今和歌集 元永本(げんえいぼん)」 は、巧みな散らし書きと豪奢な料紙の、掌の贅沢。 狩野永徳筆の国宝 「檜図屏風」 八曲一隻も国宝切手や教科書で小学生のときからおなじみの絵。 檜の葉となる深緑の顔料が金箔の上に厚く盛られ、勢いがある。絵全体に色数は少ないが、大胆な構成がモダンだ。 尾形光琳筆の重文 「風神雷神図屏風」 二曲一双も切手になっている。 本物を前に、くっきりはっきりした色彩と、キャラクターデザインのシンプルさに驚く。枯淡など微塵もない。じつにモダン。 * 以上が特別公開の目玉。それ以外の注目作品をいくつか。 ■ 土佐光起(みつおき)筆 「源氏物語図屏風 (初音・若菜 上)」 は、思い切った技。リアリズムのひとつの極致だ。 物語の世界は御簾(みす)の向こうで展開するのだから、ほんらいは見えない。 御簾越しの世界であることをどう表わすか。 御簾をなすの細く割った竹なのか葦なのか、とにかくあの1本1本を緑青(ろくしょう)のくすんだ深緑で再現した。 人物や調度を丁寧に描きこんだところで水平に緑青の線をひいていく。これは勇気の要る技だ。 緑青を使ったことで、人物や調度と色調が混じらない。 ただ水平線を引けばいいというものでもなくて、人物の顔の部分は細くとぎれとぎれの線にするなど、隅々まで画技の心が行き届いている。 屋根を取っ払い、隅々は雲を配して隠す、あの伝統手法の対極にあるネオ・リアリズムだ。写真ではただ暗い画面になるだけで技の妙が伝わりにくい。本物を見ることができてよかった。 ■ 伊藤若冲筆 「松梅群鶏図屏風」 六曲一双は、丸まるとふとった鶏たちに俳味がある。 「俳味」 と言ったところで、それは何かと自問すればこの場合、「よりよき写実をめざして、雑な部分を省き類型と異なる部分を際立たせることにより、巧まざる滑稽味がにじむこと」。 御影石の質感をだすために、石燈籠の輪郭線をかかず、燈籠全体を点描であらわしたのも斬新。 ■ 秦 意冲(はた・いちゅう)筆 「雪中棕櫚図」 は、南天の赤い実を配した棕櫚の葉が日本画の題材としてじつに新鮮で、田中一村(いっそん)の描いた奄美大島の棕櫚のイメージに直(じか)につながる。 ■ 住吉具慶筆 「洛中洛外図巻」 は、飽きることなく楽しめる生活描写の宝庫。 なんで 「飽きない」 のか。 きまじめに写実された街並みに、場違いに思えるくらいに生き生きした表情の人物たちがいて、神出鬼没しているかのような錯覚を与えるからだろう。 保存状態がたいへんよい絵巻で、色彩も鮮明なので、現代作家の作品だと言われても本気にしてしまいそうになる。 具慶は、1631年生まれ、1705年没。 ■ 特別陳列 「香りをたのしむ ― 香道具」 で 「十組盤(とくみばん)」 という道具を見て一気に心がはずんだ。 チェス盤のような方形の盤の上に、人形や桜・楓の木などの立物(たてもの)が置かれる。 盤の上には、縦方向に立物を滑り動かせるような溝が切ってある。 人形の両手こぶしには小さな穴があいており、そこに花の枝など飾り物を差せる。 香を聞いてその当否に応じて立物を前後に動かしたり、人形の持物を遣り取りしたりする。 形のない香の世界ゆえに、形あるもので勝敗を風雅に表わしたかったのだろう。心憎いばかりの遊び心だ。 ■ 小林古径筆 「阿弥陀堂」 (大正4年作品) は、赤と黒の対比が鮮烈。屋根の黒が空間に溶け出でるようにして暮れてゆくのが妖艶で、建物からあやしいエロティシズムまで立ち上るようだ。 ■ 安田靫彦(ゆきひこ)筆 「項羽」 (大正5年作品) は、英傑を金箔で鎧(よろ)わせつつ、絵は中間色でしっとりとまとめ、項羽と妃(きさき)の永訣のせつなさを表わした。 ■ 前田青邨筆 「神輿振(みこしぶり)」 (大正元年作品) は、無邪気に絵本をひも解くような楽しさだ。 西紀1177年、延暦寺の僧兵らが神輿をかつぎ、わっさわっさと京の町に乱れ入るのを、それぞれの顔をして見やる京の町衆の姿。 ……と、まぁ、たいへん贅沢な1時間半を過ごさせていただきました。 冒頭言及のお宝公開は1月16日まで。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Jan 11, 2011 12:09:42 AM
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