カテゴリ:美術館・画廊メモ
1月30日の東京藝大訪問については
東京藝大卒業・修了作品展 ぼくにとっては万博の楽しさ に書きました。行けなかった展示室が心残りで、2月2日も会社を午前半休にして2時間あまり東京藝大構内を徘徊しました。 ◆ 杉山愉岳(ゆたか)さん (修士・日本画) 「憧憬」 大学美術館B2階に展示。 佐藤草太さんと繭山桃子さんの作品にもう一度対面しようと思って大学美術館を足早に巡回したら今回は佐藤草太作品の右隣、葦原の水辺を高くとぶ一匹の蜻蛉の絵に目が釘付けになった。 蜻蛉の飛ぶあたりは箔をたくみに散らして、さざ波をきらめかせる。これがほんの少しの照明で明るく光り、その光に浮かぶシルエットとしての蜻蛉がいる。 たった一匹の蜻蛉にこれほどの思いのこもった作品を、ぼくは一生見ることはないのではないか。 葦は控えめなシルエットとして絵の下側にゆっくりそよいでいる。近づいてみると描線に卓越したキレがある。 ◆ 李豪哲さん (修士・鋳金) 「memento SとKの遺品」 大学美術館B2階に展示。 ケータイ、哺乳類の骸骨、湯呑み、電話器、ステッキ。時間の経過感を表面のシミで表わした写実的なモノの鋳金作品を、透明アクリルの向こうに盛り付けた灰と取り合わせた。 取り合わせの妙で、ひとつひとつの鋳金作品をメッセージ性がおおう。 ◆ 近藤未奈美さん (学部・デザイン) 「始まりは一本の線」 総合工房棟3階に展示。 彫像は見る角度によってほとんど無限にカタチを変え、どのカタチも作品だ。 見る角度選択の無限の可能性から最適の角度、彫像が自ずと求めているカタチを発見するのがひとつの楽しみ。 さて、近藤さんの作品は 「彫像」 ならぬ、言うならば、その、「線像」 とでも呼ぶべきだろうか。木や石を彫る代わりに、針金細工で像をつくってしまった。 彫像とちがって、作家が想定した 「見る角度」 が容易に類推できる。針金細工の場合、角度がズレると顔が福笑い状態になるからね。 近藤さんがフランスで絵日記に描いた人物の線画を、針金で立体化した作品たち。 彫像よりも見る角度は限定されるが、逆にこの針金細工軍団はほんの少し見る角度が変わっただけで劇的に表情が変わる面白さがある。 展示室のノートに学友たちが盛んに書き込んでいた。人気の学生さんのようです。 ◆ 小島沙織さん (学部・デザイン) 「おしゃれのカタチ」 総合工房棟3階に展示。 紙細工の鳥たちがいる。表面がアクリル絵具でセンスよくさらりと彩色されている。 と、その紙細工の鳥を切り抜く前はねぇとばかりに、紙細工の彩色が平面に展開された抽象画めいた描画がその隣に吊るされているではないか。 鳥の現実存在を、紙細工へと抽象する。あるいは平面に抽象する。このプロセスがおもしろい。そして、その結果がまた、まさにおしゃれ。 この作品群はさらにシリーズ化して、最終的にはすてきな 「画集+あるふぁ」 の本にも仕上がるといいね。 ◆ 小笹睦美(こざさ・むつみ)さん (学部・デザイン) 「ばらばらすいさん」 総合工房棟3階に展示。 作品にあたたかい愛がある。お魚や貝の分解組立模型。 たしか幼児教育用の市販品では、プラスチックでできたパーツを磁石で合体させるものがあったと思うが、小笹作品はひとつひとつのパーツがクッション入りの布でできていて、マジックテープで接合させるようになっている。 色調がはっきりしていながら目にやさしく、じゅうぶん藝術の域。 備え付けのおもちゃの包丁で、板前さんごっこをやってしまった。 マグロ君の肝にはポケットがついていて、なかに木片でできた小魚が入っている。遊び心がたのしい。 一般客からの称賛コメントが備え付けノートに多数書かれていた。 わたしも応援コメントを残したが、追記として 「マグロと鯛の接合マジックテープは、もっと大きくしたほうがいい。 イカやホタテの接合は磁石を使ってはどうか。 ヒラメは、このままでよいと思います」 と書き込みました。 ◆ 岸田麻里さん (学部・デザイン) 「から」 総合工房棟3階に展示。 59個の鶏卵と1個のウズラ卵の上のほうを割り開いて、ひとつひとつ異なる部屋の俯瞰を描き込んだ。鶉の卵はもちろん、いちばん小さい部屋、トイレの個室である。 卵の開口部から見た曲面世界のゆがみが不思議な効果を生んでいる。 視点を左右に動かすと、平面と異なり曲面世界の見え方は鋭く変化する。まるで特殊なレンズを通して眺めているように。 もちろん、レンズなど はまってはいない。おもしろい! * * * 今年の東京藝大卒展レポートは、この辺で。作家のみなさんの今後ますますの活躍をお祈りします。つぎは 2月17~27日、新国立美術館の五大学卒展が楽しみです! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Feb 5, 2011 11:09:20 PM
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