カテゴリ:美術館・画廊メモ
武蔵美の視覚伝達デザイン学科は、多摩美でいえばうちの娘が通う情報デザイン学科のようなところだ。
陣内利博(じんのうち・としひろ)教授のゼミは、ひとりひとりの発想が生き生きしていて、うちの娘もこのゼミで学んでいたら人生さらに変わったかも……とさえ思った。 その卒業制作展を見た。アートのセンスを社会につなげる、開かれた思考がすがすがしい。 ◆ 大森 誠さん 「CHA!」: 樹脂棒やワイヤでつくった規則的な手作り立体。驚いたことに、ひとつひとつの作品の所定の部位を動かすと、知恵の輪か手品道具のようにきれいに変態する。そのまま商品化できそうなおもしろさ。 ひとつひとつの変わり身のパターンは大森さんの発見ではなく、ものの本に書いてあるものらしいが、そういう 「動く立体」 の “変態” パターンを分類科学したところが大森さんの新機軸。 もともと武蔵美には彫刻学科に入ってから学科を移ったのだという。 手作り立体を器用につくるこまめさは、彫刻出身の面目躍如だ。 くりくりと動くパターンのコンピューター画像など、ちょいと工夫すれば魅力的な PC 壁紙として商品化できそうだ。 ◆ 安川紗也加 「浮世Ation」: 「海老蔵」 など、寫樂の大首絵5枚をそれぞれ十数秒のアニメにした。 寫樂が描いたポーズは歌舞伎の型の最終形、決まり手だが、そこに至る一連の所作がある。歌舞伎役者なら誰もが からだで覚えている型だ。それをアニメにした。 寫樂の絵が原点だが、さらに歌舞伎のビデオを何度も見て研究したり、じっさいに歌舞伎役者さんに会って所作をやってもらったりと、取材を重ねて映像作品に仕上げた。 わたしも自分の娘には 「部屋にこもっていないで取材をして刺激を受けないといいものは作れない」 と言って、そのたびに娘にムッとされているのだが (だから最近はもう言わないが) 、そういう基本を安川紗也加さんは しっかり だいじにしている。 惜しむらくは、アニメそのものの動きは ややぎこちなく感じられる。 しかし、この発想を生かして何人かで協同して 「大首絵ビデオクリップ」 をつくり、たとえば浮世絵展のロビーないし途中の休憩場所のPCで流せば、おもしろいことになる。 観覧者の脳は確実に刺激を受け、大首絵の実物を前にしたとき、寫樂が切り取った瞬間に動を感じようとするだろう。 受容者の脳の回路を組み替える。 これこそが、アートの本質だとぼくは思っている。 ◆ 山村里美 「はたらくおじさん ―ガス管工事―」: 引き込むちからがあるアニメ。 道路のアスファルト剥がしに始まるガス管取替え工事を、丹念に取材して動画にした。 絵は素朴で、動きのパターンも単純で、いわゆるアート作品っぽくはないが、工事の 「所作の型」 を追究したという点では安川紗也加さんの 「浮世Ation」 に共通するところがある。 ガス会社のひとがご覧になったとき 「あ、これは研修用につかえる」 と言葉が出たそうだ。 ◆ 谷田 望さん 「おもひで師 ~3.11写真救済の軌跡~」: 写真への愛の究極を写真で撮り、取材記録を自費出版のフリーペーパーにした。 津波で流されて泥によごれた写真を洗って、もとの持ち主へ返す活動を取材した。 洗浄枚数100万枚、返還枚数40万枚という数字に、静かな感動を覚え、感動にふるえた。 谷田さんの写真ひとつひとつが、いい。現場に踏み込み にこやかに密着しようとするたましいと、それを支える技がある。 「武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科 2011年度 陣内ゼミ卒業制作展 <複眼思考2012>」 は、3月10日まで 「アートスペース kimura ASK?」 (京橋三丁目6-5) で開催。 3月9日午後4時からは各学生による作品説明会がある。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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