カテゴリ:美術館・画廊メモ
再会も出会いもあったし、はじめて浮世絵を買ったし、はじめて中国人アーティストの写真作品を買ったし、収穫の多いアートフェアだった。
(アートフェア東京2012は、3月30日~4月1日の3日間、東京国際フォーラム 地下2階展示ホールで開催。) 3月30日と31日に行った。買い物は4点、都合16万8千円でした。 ◆ 渓斎英泉 「春野薄雪(はるのうすゆき) (鶯宿梅おうしゅくばい)」 @ 角匠(すみしょう) (cent mil enoj) たいそう思い切った構図の春画。ぼくの尺度からいえば、とてもいいテイスト。 よくありがちな春画は、むくむくした男根がびらびらした女陰と接する誇張に満ちた図なのだけど、この 「春野薄雪 (鶯宿梅)」 は女性のからだの描き方がナチュラルで、モダンな感じがした。 浮世絵は、これまで展覧会やカタログで相当の数を見てきたおかげで、自分のなかに判断基準ができていたので、今回スイッチが入るとほぼ即決してしまった。 文政5年(1822年)の作とあった。ところが浮世絵そのものにはどこにも発行年は書かれていない。 「文政5年だと、どうやってわかったのでしょうか」 角匠の角田日出男さんが、親切に解説してくれた。 『春野薄雪』 というのは、じつは数枚の浮世絵版画を収めた艶本で、画廊としても1冊そのまま販売できれば望ましいのだけれど、それではあまりに高価すぎて買い手がつかない。 そこで書籍を解体し、なかの浮世絵版画を1枚1枚バラで売ることとし、そのなかの 「鶯宿梅」 を今回ぼくが買ったというわけ。 艶本の奥付を見せてくださった。たしかに文政5年とあった。 ◆ 王慶松 “Follow Me” @ Ullens Center for Contemporary Art (kvindek mil enoj) 写真作品。インクジェットプリンターで刷った200枚限定 (86/200)、作家署名入り。 巨大な黒板。英文字、漢字、白墨の消し跡。猥雑。 作家自身が講師に扮し教壇に坐って教鞭を振りかざしている。気合。愛嬌。気迫。 作品のパワーに引き込まれていたら、係の女性が英語で話しかけてきた。北京の画廊なのである。こちらから中国語に切り替えた。 今回の展示でどの作品が好きかと聞くので、この “Follow Me” を指さしたら、 「綺麗でもないこの作品を選ぶとは、いいセンスです」 と、親指を立ててほめてくれる。セールス・トークだけどね。 「アートフェアの主催者が来て、やはりこの作品を買いたいと言っていた」 という一言もくすぐる。あとで調べたら、“Follow Me” は けっこう有名な写真作品だった。 心が傾き、額縁は要らないな…と思いはじめたとき 「額縁の代わりに、作品を入れるホルダー付きの販売なら、お値引きできます」 と電卓で価格を見せてくれたところで、陥落。 ほんとは多少は価格交渉の余地があったのだろう、 「サービスです」 といって、本をくれた。これがまた、お宝だった。 “China Talks: Interviews With 32 Contemporary Artists by Jerome Sans” (Timezone 8 社、平成21年刊) 32人の中国の現代アート作家のインタビューを収めた図録で、インタビューをした Jerome Sans 氏は Ullens Center for Contemporary Art のオーナーだ。 たしかにこの展示ブースの中国人アート作品はみな魅力的で、Jerome Sans 氏の目利き力を感じた。 ぼくに声をかけてくれたギャラリーの女性、慕金鵬さんは気のいいひとで、それから1時間余り経ってブースの近くを通りかかったら、駆け寄ってきて作品 “Follow Me” を印刷した絵葉書をくれた。 「探したら、あったので。よろこぶと思って」 と。 ◆ 生井 巌(なまい・いわお) ドローイング 「他人の顔」 + 「拾いある記」 @ えすぱす ミラボオ (ok mil enoj) ブースに、ペン画満載の白地の文庫判日記が置いてあった。たくさんの貼りこみで ぶ厚くなり、天地と小口を焼いてある。見覚えがあった。 「それって、非売品ですよね?」 と思わず聞いた。まぁ、値段がつけられないだろう。 見覚えがあったのは正解で、いぜん湯島の羽黒洞さんでも展示されていたのである。 絵葉書大のペン画を200枚余り収めた葉書ホルダーをめくるうち、欲しくなってきた。 ぼくのスイッチを入れたのは、顔面だけが遊離してこちらを向いている横向き男のペン画。安部公房の 『他人の顔』 を連想させる作品。 「売っていただけますか」 と聞いたら、「作家を呼んできます」 という。 ほどなく来られた昭和16年生まれの生井さんの笑顔には、いろんな思いや出来事で洗われた純粋さを感じた。元気のかたまりのようなひとだ。 販売を快諾してくれた。 「ドローイングにお題をつけてください」 と頼んだが、無題とのこと。 ぼくが勝手に自分だけの作品呼称として 「他人の顔」 と名付けた。 生井さんは、「おまけをあげましょう」 と言って非売品のお宝もくださった。 回数券切符のホルダーに畳みいれた紙を広げると、道で拾った錆びた部材の写生だ。 題して 「拾いある記、繁栄を支えた愛しき物達」。 ◆ 益村千鶴(ますむら・ちづる) neutron artist prints collector’s box @ neutron Tokyo (dek mil enoj) 細密写実。ときに、写実のピースを再構成してシュールな作品にも仕上げる。とにかく丁寧だ。 作家の益村さん、それからギャラリストの森家由起(もりや・ゆき)さんとお話しするうち、油画作品を葉書大に縮小したジクレープリント4枚セット (Edition number: 7/20) を買うことにした。 作品名は、“Blind” “Esperanza” “Viburnum” “Interlacing” とある。 (esperanza はスペイン語で「希望」、viburnum は植物名で「ガマズミ」。) neutron tokyo さんでは、ちょうど3月に多田さやかさん (東北藝工大在学中) に裸婦画を注文して描いてもらったところだった (作品名 “Rise”; dudek mil enoj)。 * ギャラリストの皆さんとのお話も楽しい。 とりわけ Gallery Suchi の須知吾朗さん、靖山画廊の佐甲朋子さん。 Bambinart Gallery の米山 馨(よねやま・けい)さんは、記帳したぼくの名を見て、「facebook やブログを見てますよ」 と声をかけてくださった。 万画廊の伊藤 愛さん。名古屋の画廊さんなので滅多に会えないひとだが、驚いたことに画廊じたいが4月に銀座に移転してくるという。Welcome to Tokyo! アーティストとの出会いで一番のびっくりは、近藤智美(さとみ)さん。VOCA展で作品を見、冊子で写真を見て、いちど会ってみたいと思っていたら、なんと Art Lab TOKYO のブースで受付嬢をしてらっしゃった。 それから、注目のアーティストは KAMIYA ART に出品していた中里善恵(なかざと・よしえ)さん。 墨で描いた動物画は、南画ふうでも宋画ふうでもなく、ゴヤの作品を想起した。 昭和57年生まれ、東京藝大油画卒。 絵もいいけど、小柄なご本人もお美しい。 東京藝大の卒業・修了展で作品をみて注目した佐藤草太さんにも、新生堂さんのブースでお会いできた。大正時代からワープしてきたような雰囲気のひとだ。 アートフェアの各ブースの批評をしていたら endless なので、今年はこれくらいで。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Apr 5, 2012 07:43:18 AM
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