カテゴリ:美術館・画廊メモ
日展はぼくにとって、わくわく感に満ちた展覧会だったのだが、ことしは油画の特選作品の選び方に大いに不満あり。
心が動く作品も、女性を描いた若手の油画の秀作に限られた。 もっとも気に入ったのは李暁剛(り・ぎょうごう、Li Xiaogang)さんの「青いリンゴ」。 長い髪の、ジーンズと白いカーデガンの素足の女性。右足を抱え込む手には、青いリンゴが握られている。四肢の長さで、北方漢人だと知れる。 くぼんだ漆喰壁には、しずかに寄せる白波の姿が透ける。 ため息が出そうな写実画でありながら、ひとつの写実にべつの写実が重なり、徹底した写実の向こうにのみ存在しうる幻想が現出する。 李暁剛さんは、第39回と第41回の日展で特選をとり、ことしは新審査員として出品している。昭和33年北京生まれ。 特選のなかでは、橘貴紀さんの 「亜也(あや)」 がよかった。 亜也という若い女性の立像。ふっとちからを抜いて立っている姿の存在感。写実の確かさと、ちからの抜け具合のアンバランスが、いい。 同じく特選となった佐藤龍人(りゅうと)さんの作品は上野の森美術館併設ギャラリーの個展で拝見したことあり。 他の特選作品には不満が多い。めりはりのない川辺の住居の絵や、絵の半分を占める赤い背景の塗りがあまりに単調な瘤牛(こぶうし)の絵、背景の描きがあまりに平凡な老女の坐像、完成度80%のイコン祭壇の描画などが、特選に選ばれているのは、何としたことか。 年功序列で 「そろそろ潮時ですね」 とばかりの特選であることが見え見えだ。 ぼくが佐藤龍人さんの作品を前に、同氏の個展で見た10点ほどの作品を回想しながら評価するのと同じプロセスが働いているのではあろうけど。 * ぼくが審査員なら特選にしたい作品を4点ばかり。 買いたい! と思った作品は、飯田裕子(ゆうこ)さんの 「遥(はるか)」。 褐色の肌の異国の美少女の、さわやかなヌード。いつまでも眺めていたい。 うしろの獅子と縞馬は、少女を際立たせるべく さらりと描かれているが、いい加減ではない。 作家の技倆を感じたのが、開原順子さんの “Nadia” だ。 インドネシアの女性だろうか、バティックを着て密林に立つ。 緑と茶色が織り成す絵。バティックの絵柄はこまやかに、女性の顔やからだは軽やかに描かれ、めりはりがある。 古河原 泉さんの 「ここに湛(たた)えよう」 は、日常世界の女性が瞑目し、あたかも水の女神のように腕をのばし手をひろげる。 モノクロの女性を緑の色彩が支配するが、アクセントの赤の散らし方が、いいセンスだ。 渡邊裕公さんの 「静穏麗日」 は、ソファに坐る女性を中間色の水性ゲルボールペンの丹念な線描きで浮かび上がらせた。 日本画、油画とは別の1ジャンルを設けてさしあげたくなる。 愛媛県の作家だ。 * 特選とは言わないが、モチーフが面白かったのが武満俊一郎さんの “snow white” である。 「白雪姫」 といっても、姫と鏡の女王は白いドレスと黒服を着たふつうの女性である。黒服の女性が白いドレスの女性を組み伏せてリンゴを差し出す。 武満作品そのものは着想に依存しすぎている。描かれた女性が平凡すぎたかな。 しかしぼくは思ったのだけど、こういう白と黒の女性が対立する組み合わせを “Snow White” というモチーフとして普遍化し、画家が競ってそういう “Snow White” 画像を描く時代が来たらおもしろいな。 * 彫刻は、ブロンズや石膏、木彫に替って、樹脂作品が多いことに気がついた。 べつに今年になって増えたわけではなく、ぼくがいままで気がつかなかっただけだろうけど。 男の子と痩せ牛の、植田 努さんの特選 「ケサリアの牛飼い」 を周回しつつ、ふと 「樹脂」 という表示を見て驚いたのである。 牛飼い像を最初みたときはブロンズ像と思った。 それにしては、そのモトとなる粘土造形のみずみずしさがそのままに出ていて、ブロンズのゴツゴツ感がないなぁと思っていたところに、「樹脂」 の2文字が目にはいった。 なるほど樹脂の作品は、伝統的なブロンズや石膏の作品に比べて、制作が比較的容易で、しかも割れない。 これからますます樹脂作品が増えるのではないか。 そんななか、こころに残ったのは石膏作品、勝野眞言さんの 「植・VII」。 うつくしくうつむくビーナスの頭部は割れて、蔓草が生(お)いだしている。 あえて不便な石膏という素材をつかったことで、はかない白のもろさが女性美を引き立てている。彫刻作品の写真を初めて買った。 今回、日本画についてコメントしていないが、実際のところ日本画の部は停滞しきっていないか。 油画と同じモチーフを、単に岩絵具で描くから日本画でございで良いのだろうか。油画にないモチーフを料理したものが、あまりに少なかった。 (第44回日展は、国立新美術館で12月9日まで。今年からは金曜日も午後6時で閉まってしまうのが残念。昨年まで金曜は夜8時まで至福の時があったのに。) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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