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Jan 11, 2013
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カテゴリ:美術館・画廊メモ
世田谷美術館で 「生誕100年 松本竣介展」 を見た。松本竣介さんの知のきらめきと感性の躍動感、やさしく はにかむ現代人そのままの風貌と微笑みに触れた。(展覧会は1月14日まで。)

いま ぼくのすぐそばに何気なく立っているひとのような、とても近いひとだと思った。大正元年生まれのひとだけど、時代を軽やかに超えた親近感をもった。
昭和前期がこれほど身近に感じられたことは、はじめてだ。

ちらしやポスターにも使われた代表作の 「立てる像」 は、おととし平成23年9月30日に神奈川県立近代美術館 鎌倉 の 「開館60周年 近代の洋画 ザ・ベスト・コレクション」 展で見ていた。

恥ずかしながらそのときは背景知識がまったくなく、詰襟の学生服を着た学生をさらっと描いた絵かと思った。戸惑った。なぜ所蔵品ベスト展に、この作品が?
昭和十年代の学生さんにしては、ひどくあかぬけてるなぁ、その清新さがいいのかなぁと足をとめたのを覚えている。

今回あらためて大回顧展の作品群のなかで 「立てる像」 を見て、竣介さんの声が聞こえた。
肩ひじ張らずに、握りこぶしでもなく、しかめっ面でもなく、妙な気合もなく、かといって飄々としているわけでもなく、しかしすっくと立っている。

力強い自然体、と言えばいいだろうか。自然体であることの強さを、清新に描いている。
背景の建物群の描きかたは、竣介ワールドだ。抽象化された楕円の雲が清新さを演出している。

絵を見ることの悦びを感じた。



松本竣介さんの画業の全貌を知って、昭和15年ごろの一連の作品群に驚いた。シャガールを思わせる色彩とモンタージュ手法で、都会のざわめきを描いている。

現代の日展か二科展に出しても、清新さを評価されて特選を取りそうな、「黒い花」 連作。
謎ときを聞いてみたくなる 「序説」。

昭和10年ごろの 「母と子」 や 「少女」 には ルオーを感じるし、昭和17年ごろの 「黒いコート」 や 「少女」 には藤田嗣治を感じた。

いろんな絵が描けるひと。短い生涯のなかで、質的には3つの人生分くらいの絵を描いている。



禎子(ていこ)夫人とともに昭和11年10月から12年12月にかけて営んだ月刊エッセー雑誌の 『雑記帳』 が、とてもおしゃれだ。復刻版が出たら高価でも買いたいとおもった。

最終号の昭和12年12月号の表紙をみると、掲載記事として
≪英国民性の素描
 歳末風物 今年の追懐
 小説 クリスマス宵祭 オーヘンリー
 小説 新婚旅行 マンスフィールド

などとある。たいそうモダンである。

昭和20年8月15日に疎開先の禎子夫人へ東京からしたためた手紙は、
≪陛下の 「五内(ごだい)為に裂く」 の御言葉を肝に刻みこんで置け≫
の一節が印象深い。
「五内為に裂く」 は、かねてぼくも 終戦の詔書 の核心のメッセージと考えてきた。

竣介さんは親友に宛てた手紙のなかで
「四十才になったら詩集を出す」
と語っていたという。
むかしのひとのなかで、ぼくがはじめて 「お会いしたい」 と思ったひと、松本竣介さん。

持病の気管支喘息に加えて結核が襲い、36歳で亡くなった。生きておられたら、たぶんあと3つ分くらいの生涯に相当する画業を残したであろうひとだ。



世田谷美術館へ行った翌日、東京国立近代美術館 「ベストセレクション 日本近代美術の100年」 展を再訪して、昭和18年の 「並木道」、昭和23年の 「建物」 をしみじみと味わった。





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最終更新日  Jan 13, 2013 02:12:14 PM
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