カテゴリ:詩詞・短歌・俳句
現 実 と 真 実 の ご と ブ ラ ン コ は 二 つ 並 ん で 一 つ が 揺 れ る 東(ひがし)直子
「現実」 そして 「真実」 という抽象が、ほんとに実在物として空間を動いているように見えてくる、ふしぎな短歌。 1日1作品を紡ぎ出しひねり出した、作家 平成19年の短歌日記の、10月19日篇から。 今 つ よ く お も っ た こ と を 告 げ た く て 花 道 走 る よ う に 枯 葉 は 枯葉の唐突で付和雷同な動き。情念の極みの唐突なほとばしりも、風にもてあそばれる枯葉の動きのように見えてしまうのか。 情念のはかなさ、情動のかなしさを、ほろりと感じる。 東 直子 著 『十階 短歌日記2007』 (ふらんす堂、平成22年刊) 十階というのは、東さんがいるマンションの階数らしい。そこから、そこで、感じたもの。 や わ ら か い も の に 匙 を 入 れ る と き、 え、 と 小 さ く そ れ が さ さ や く このデリケートな感性そのものを味わいたい。 しかし、「ものに匙を」 と破調なのが、ちょっと好かない。「え、と小さく」 は 「えっと小さく」 と数えれば破調ではないが。 片 寄 り て 花 び ら 池 の 面(も)に 腐 る そ ん な ふ う で も 愛 し た か っ た 歳を重ねてみて想い至る、せつない愛のイメージだ。 粗 塩 を ふ り て 並 べ し 手 羽 先 の 同 じ 角 度 で ち ぢ ん で ゆ き ぬ 目にくっきりと浮かぶ。その画像が自分の脳のどの回路にピッとつながるかは、そのときの風まかせだね。 簡 単 に 死 ね る 装 置 の あ る 都 市 に 集 い 触 れ 合 い 重 な り 泣 き ぬ 「簡単に死ねる装置のある都市」 にしびれる。そこに動詞がたたみかける。 ク シ ャ ミ し て ご め ん と 言 っ て さ っ き ま で の 深 刻 だ っ た 話 が 終 わ る なんとなく石川啄木を感じた。あぁそういうことってあるよねと。 声 あ れ ば 何 を 言 い た か っ た の か 生 ま れ た ば か り の よ う な 顔 し て 短歌日記には毎日添え書きがあって、この短歌への添え書きは 「沖縄のお土産をいただいた。小さな赤いシーサーが、小さな小さな舌を見せている」。 それならいっそ、 声あれば何を言いたかったのか生まれたばかりのようなシーサー とすればよかったのでは? と、「NHK短歌」 選者もつとめた作家の短歌を添削したくなってしまった。 こ の 街 が 廃 墟 に な っ て も 後 ろ 手 に 空 を 見 上 げ た ま ま な の で し ょ う この短歌の添え書きは、 「公園の緑がせり出している舗道に、ふんわりと笑っている女の子の銅像がある」。 それなら、いっそ この街が廃墟になっても後ろ手に空を見上げたままの銅像 ではどうだろう。また添削してしまった。 まぁ、東 直子さんはプロだから、ぼくごときが考える代案などは脳のなかで瞬時に考え出しては捨てているのだろう。むしろ、「ん?」 と立ち止まらせ、気にかけさせる作品をつくろうとしている。 昭和38年生まれの作家。Wikipedia によれば、大学在学中に演劇活動を行っていたとあって、親近感をもった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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