カテゴリ:美術館・画廊メモ
1月終わりの「藝大卒展」記。観覧2日目のことを今ごろ書きます。
(観覧1日目のことは 東京藝大卒業・修了作品展 林 千歩さんの映像、藤森詔子さんの版画・油画・立体、若林真耶さんの鍛金 に書いています。) 楽しみにしていた 「五美大展」 が思いのほか低調だったのと比べるにつけ、藝大のちからを再認識したのでした。ひらめきやセンスもさることながら、作品制作へのねばり、時間のかけ方が、大きな差を生んでいるのではないかと。 東京都美術館での展示から。 内田里奈(りな)さん (デザイン、学部4年) の 「憎しみのかえるところII」 が印象深い。 白い人体が、樟脳のように蒸発昇華している。和紙でつくられた巨大な張子。 人体には、あまたの焦げ茶色の蛾がまとわりつく。焦げ茶は着色ではなく、紙を焦がして出した色。この技だけでもただものではない。 よく見ると、人体の皮膚に繭のようなものがいくつも埋まっている。 あぁ、人体に巣食う蛾の幼虫・さなぎが孵化して皮膚を食いちぎり群れている。 しずかで陰惨なストーリーを、高度な工藝であらわにした。 幻想作品をみるとき、出来が中途半端だと 「だますなら徹底的にだましてほしい」 と作家さんにアドバイスすることがあるが、内田里奈さんの場合はまさに見る者を徹底的にだまして、別世界へ運んでくれる。 今回の卒展でいちばんじっくり見たのが、たぶんこの作品だ。そして見た後も、内田里奈さんがこれからどういうアプローチをしていけばいいのだろうと、気になり続けた。 美術館に置く作品としてはじつにいいのだけど、コレクションとして買おうとするとパーツがあまりにバラバラで、はかない。 溶けた人間はまだ よいとして、何十匹とある蛾に美の愛好家は魅力を感じるか。 彼女の造形の腕前を生かすにはどういうテーマがいいのだろう。 翼があり、紙焦がしの技法が生かせて、美として受け入れられやすいもの。 小鳥ではないかと思った。蛾よりも手間はかかるけど。 人体の皮膚から鳥が孵化するとすれば、見る者に拒絶感はすくない。 鳥は、さまざまなメタファーが蓄積されたモチーフだから、想像は一気に多重に開花するはずだ。 * 大坂奈穂さん (デザイン、学部4年) の 「奇蝶」 は、展翅された蝶の羽がアルファベットのAからZまで大文字小文字をつくり、幼虫が疑問符・感嘆符をかたちづくる。 想像上の昆虫フィギュアでは、国展やシェル賞展で入賞した川越ゆりえさんの作品にぼくは注目している。 変わりアルファベットも、いろいろなひとが作品を作ってきた。 そういうアイディアの合体といえば言えるけど、こうして粘り強く実際に巨大な昆虫標本箱にまで仕立てた粘りが、すごいのである。 * 高城(たき)ちひろさん (油画、学部4年) の 「逃避、夢の中へ」 は、高い脚つきのキャビネットの四周に油画の小品を9枚ずつ、つまり36枚の油画をあしらった作品。 キャビネットは下が開いていて、下から中に頭を突っ込んで闇のなかで内側の小壁画も見られるようになっている。「逃避、夢の中へ」 という題名も、この趣向から来ているのだろう。 それ以外にも、壁に十数枚の作品を展示していて、意欲的なひとである。 作品そのものは、銀座フォレストあたりでふらりと出会いそうな幻想油画で、実際にフォレストの森 弘彦さんから声がかかったらしい。 作品は、いいものとそうでないもののムラがあるけれど、方向性は現代アートの需要に応えているので、どんどん描いてほしい。 「逃避、夢の中へ」 は、このあとどう保管されるのか気になっていたら、その後 高城ちひろさんから連絡があり、「みなかみコレクション」 の平成25年度収蔵作品として収められることになったと。 群馬県利根郡みなかみ町(まち)は、新潟県との県境沿いにある人口2万人の町。「みなかみ」 は 「水上」 と書くが、平成17年の町村合併でひらがな表記に変わった。 みなかみ町は、まちづくりの一環として藝術村をかたちづくろうと、平成18年から東京藝大の卒業・修了作品の寄贈を受けコレクションとし、展覧会やワークショップ開催も行ってきた。 * 大石雪野さん (彫刻、修士2年) の作品は、独特の発想とそれを支える技があって、見ごたえあり。 えてして 「発想だおれ」 あるいは 「技だおれ」 に終わるひとが多いなか、一流の発想と技が共存しているひと。 展示室の隅っこに置かれた “Time continuity seen in her surface” は、うつくしい裸婦の後ろ姿。FRPでつくった造形にプロジェクターで映像投影してある。 隅っこに置かれたのは理由があって、裏にまわって彫像の顔をみると、それが老婆なのである。 “Bison [Outstretched]” は、動物のバイソンを縦長に引き伸ばした。 “Old man [of pieces]” は、人頭をいくつも横に輪切りにして ずらした。 * 総合工房棟では 村上 萌(もえ)さん (先端藝術表現、修士2年) のノリがよかった。 黒と朱の漆工藝とみえる作品 「食媒」 に、一升瓶で日本酒らしきものをサーブする和服の女。作品の周囲には8人の客が群がり、中央からサーブされる酒がながれて自分の眼前の窪みに溜まったのをすすりつつ、縁(えにし)を確かめ合うのであった。 とまぁ、そういう趣向の作品でありまして、和服の女は村上萌さんそのひと。 サーブされているのは、学内展示で酒の供応は不可ということで、お出汁(だし)なのだそうである。 秘密結社にぜひ欲しいアイテムですね (笑) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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