カテゴリ:ぼくの疑問符
このていどの人でもハーバード大学の歴史教授がつとまるのかと、唖然とさせられた。著者の入江 昭(あきら)氏は昭和9年生まれで、ハーバード大で歴史学の博士号を取得し、同大名誉教授である。
知人がフェースブックで絶賛していたので、かなり期待感をもって手にとった。 いつまで読んでも予告編みたいな浅さだなぁと思いつつ読み進んでいたら、 ≪国家のなかには中国のように数千年も存在してきたものもあるし、多数の 「新興国家」 のように建国後数十年に過ぎないものもある。≫ (56頁) は? 「中国」 こそ、新興国家の典型なのだがね。建国したのは昭和24年、いや、歴史学的に分析すれば、文化大革命の終焉をもって現在の中国は建国された。それ以前は、漢字を使う別の国家だ。 百歩譲っても、満洲人の支配から独立して漢人国家を立てた中華民国建国あたりが、さかのぼれる最古のところだが。 入江昭著 『歴史家が見る現代世界』 (講談社現代新書、平成26年刊) ≪「市民社会化」 の現象には国によって著しい格差があり、それがすぐにグローバルな規模での民主化につながるとは限らない。1960年代だけを見ても、66年に始まった中国の 「文化大革命」 は、最初のうちは反体制的な要素を持っており、毛沢東自身、政府や共産党の権力を弱めて人民の力を高めようとしたし、実際、上海その他の地方では学生や労働者が中心となって新しい政治・社会秩序を作ろうとした。しかし長続きはせず、2~3年ののちには従来にも増して強力な中央政権が出現している。≫ (106~107頁) なんとも、突っ込みどころ満載だ。 文脈によれば、毛沢東が煽り立てた文革のアナーキーも 「市民社会化」 の一環だと入江昭氏は考えているようだ。 毛沢東が 「人民の力を高めようとした」 とはね。やぶれかぶれの権力闘争を仕掛けた毛沢東が、政権秩序に対してアナーキーで対抗してみせたことを 「反体制的な要素」 と評価する入江昭氏の神経が理解できない。むしろ毛沢東に奉仕する体制づくりの一環にすぎまい。 さらに 「2~3年ののちには従来にも増して強力な中央政権」 とは、いつの時点を指すのか。毛沢東の権力闘争勝利の時点を言うのであろうが、それは決して 「強力な」 基盤のある政権ではなく、単に恐怖政治を敷いたに過ぎないのだが。 いったい入江昭氏にとって「歴史」とは何なのか。 ≪「歴史解釈」 は常に変わりうるものだが、歴史そのものは変えることができない。「歴史を知る」 ということは、過去の事蹟を学び、現代とのつながりを考えることである。≫ (149頁) わたしなら、こう書くところだ: ≪「歴史」 は常に語り変えられるものだが、出来事そのものは変えることができない。「歴史を知る」 ということは、出来事をある人々がどういう切り口でストーリー化したかを批判的に検証することである。≫ 歴史とは何かということについて、入江 昭 氏にはもう少し勉強してもらいたいものだ。 ≪1930年代のナチスドイツにおける人種制作と、その極限の表れとしてのユダヤ人迫害も、ユダヤ人の大部分が国の社会に溶け込み、経済活動を行い、文化面でも積極的な活動をしていたことに対する 「純血」 民族 (いわゆるアーリア民族) の反動であり、日本での「大和民族」優越主義と相通ずるものをもっていた。≫ (207頁) ここに至っては、唖然とする他ない。 善良なるドイツ国民として生活していたユダヤ系の人々を突然にドイツ社会から引っぺがして、「血すじ」 を理由に迫害したナチスドイツと、日本人になりすましたい朝鮮人に創氏改名を認めた日本国は、真っ向から異なる原理にもとづいている。 入江 昭 氏は、不明を恥じるべきである。 ≪世界中の人たちが着々と雑種化、混血化するにしたがって、血統とか伝統とかいうものの重要性が減少していくのは自然の成り行きであり、やがては社会、文化、国家など、あらゆる存在が自分と他者を区別する境界を取り外し、1つの地球としてのアイデンティティのみが残るようなときが来るかもしれないのである。≫ (213頁) 入江昭氏には、中国共産党から「ぜひ講演をお願いします」とお呼びがかかるのではないか。 ウイグル人女性を強制的に漢人地域に来させて漢人と結婚させることでウイグル民族の抹殺を図ろうとしている中国共産党。その政策を、入江昭氏は結果的に全面支持しているわけだ。 アメリカ先住民を略奪虐殺して文明を抹殺した白人たちも、「やがては社会、文化、国家など、あらゆる存在が自分と他者を区別する境界を取り外し、1つの地球としてのアイデンティティのみが残る」 と聞けば、さぞや心やすらかになるだろう。 入江昭氏のような学者がもてはやされる歴史学界とは、いったい何なのだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Nov 3, 2014 07:35:29 AM
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