テーマ:政治について(20085)
カテゴリ:ぼくの疑問符
電車内のつり革が、一般人の手で引きちぎれるとは驚きだ。プロレスラーならいざしらず。わたしが通勤で利用する地下鉄千代田線でいっとき、犯人を見かけたら駅員に知らせてほしいと車掌アナウンスが流れていたことがある。
平成28年4月19日の日経夕刊15面にこんな報道があった: ≪つり革ちぎった男逮捕 警視庁、器物損壊容疑 混雑への不満供述 電車内のつり革を引きちぎったとして、警視庁捜査3課は4月19日までに、会社員の松村道雄容疑者(63)=東京都足立区東和4=を器物損壊容疑で現行犯逮捕した。都内では昨年11月以降、大手私鉄やJRの電車のつり革が盗まれる被害が約200件確認されており、同課は関連を調べる。 同課によると、松村容疑者は 「電車が混雑していて立ちっぱなしで疲れていたため、鉄道会社を困らせようと思った」 と供述しているという。 逮捕容疑は4月16日午後7時40分ごろ、東京メトロ千代田線の町屋―北千住間の車内でつり革を両手でつかんでねじり、引きちぎった疑い。同課によると、千代田線では4月5日につり革が盗まれる被害があり、防犯カメラに同容疑者とみられる男が映っていたという。≫ ■ 実名報道される・されない ■ 63歳にもなって電車のつり革を(おそらくは200本も)引きちぎる行為に及ぶとは、一般人の用語でいえば「頭がおかしい」状態、専門用語でいえば「心神喪失」「心神耗弱(こうじゃく)」状態にあったのではないか……とも言えようが、現行犯逮捕された容疑者は、年齢・氏名はおろか住所も「東和(とうわ)四丁目」と丁目まで報道されてしまった。 わたしの感覚からいくと、たとえ後のち「心神喪失」と判断されて無罪になったとしても、年齢・氏名を報道することは正しい。住所は「足立区」までで とどめるべきかなとも思うが。 * * * なんでこんなことを突然書くかといえば、2年前の平成26年におきた「アンネの日記破損事件」のことが思い出されるからだ。犯人逮捕後の当局対応の不可解さに、いまだに納得がいかないのである。 「日記」本の破損がどのようなものであったか、こちらにもっと写真がある: http://yomouni.blog.fc2.com/blog-entry-4694.html 「よもぎねこです♪ 報道しない自由 アンネの日記破損事件」 上のブログにもあるとおり、事件発生当時は日本国の名誉が傷つくほどの国際問題となりかけた。事件について忘れたかたは、Wikipediaの「アンネの日記破損事件」の項も参照いただきたい。 犯人が逮捕されるまで、新聞もテレビも「アンネの日記破損」のことを詳しく報道していた。ところが、平成26年3月14日に小平市在住36歳の無職の男が逮捕されて以降、メディアの追及はパタリと止んだ。顔写真はおろか、実名も報道されなかった。そして、まるで臭いものにフタをするかのように、6月20日、東京地方検察庁は容疑者の「心神喪失」を理由に不起訴とし、幕が引かれた。 ■ 心神喪失って、どういう状態 ■ わたしの感覚では、心神喪失の状態とはたとえば、図書館で突然奇声をあげながらペットボトルのジュースを本棚にぶちまける行為を言う。図書館や書店で「アンネ本」だけを選び出して秘かに破損させるという“知的”で意識的・計画的な悪事が「心神喪失」で片づけられるとしたら、およそ全ての殺人や強盗や傷害事件は「心神喪失」で片づけるべきなのではなかろうか。あっさり実名報道された「つり革ひきちぎり男」のほうが、よほど「心神喪失」していると思う。 「アンネの日記破損事件」の真相を知らせようとしない捜査当局の意図に唯々諾々(いいだくだく)と従って、一斉に矛を収める日本のメディアの横並び体質。 平成28年4月20日に「国境なき記者団」(本部・パリ)が世界各国の報道自由度ランキングを発表し、日本は180ヶ国・地域のうちの恥ずべき「72位」だった。(アンネの日記破損事件のあった平成26年には、日本は「59位」。) メディア後進国のレッテルを貼られたのは悔しいが、アンネの日記破損事件の顛末を思えば、わたしは国境なき記者団の評価を受け入れざるをえない。 ■ 辛坊治郎さんの正論 ■ 平成26年3月19日に衆議院内閣委員会で日本維新の会(当時)の中丸啓(なかまる・ひろむ)議員が、アンネの日記破損事件の犯人逮捕後に容疑者の実名報道がない理由について質問した。国家公安委員会の古屋圭司委員長が答辯している: https://www.youtube.com/watch?v=FQuSo3yaN0g 「中丸啓:アンネの日記の事件でなぜか実名報道がない」 (12分45秒~16分06秒のところ) 古屋委員長の官僚答辯には全く納得できない。おそらく中丸議員も納得していまい。 この問題について辛坊治郎(しんぼう・じろう)さんが論じている。じつに正論である: https://www.youtube.com/watch?v=TY92pW3NTaQ 「アンネの日記破損事件で、犯人の実名報道がされないのは何故か?【辛坊治郎ズームそこまでいうか!】」 このうち2分40秒~4分04秒を文字起こししてみた: ≪匿名って、おかしくないかっていう話で。 当然、重度の精神障碍で心神喪失の場合に刑事責任を問えないのはそれは万国共通ですよ。 それに関しては近代刑法は世界共通で、日本だけの話ではないので、それに関しては当然なんだけれども、名前を出さないとか、報道しないとかいうのは、イコールじゃないからね。 罪に問えないということと、名前を報道してはいけないということは、別次元の話で。 世界じゅうがそうしてるよね、心神喪失の場合に罪には問えないけれども、どこの誰が犯人なんだという名前と顔は報道するよ、ふつう。≫ ■ 大事を一笑に付するか ■ ≪日本はなぜか、 「罪に問えない」ということと 「報道しない」ということが イコールになってるって、こんな変なハナシはないわけで、それ、違うでしょと。 我々が報道するのはべつに、罪を問うために報道しているのじゃなくて、どこの誰が何をという事実関係を確定させるために報道しているわけだから、刑事責任があるのかないのかというのとは本質的に違う問題なんだけれど、今回全部、警察も匿名で、どこの誰が犯人か分りません。 じゃぁその人物が本当に刑事責任を問えないような状況なのかもわからないし、思想的背景があったのかなかったのかも検証ができない。 いっぽうで何となくそういう中途半端なリークで、あたかも思想的背景で行われたということになると、日本の国際的な立場がきわめて悪くなる。異常だよね、この現状は。≫ わたしが政治家や言論人に会う機会があるとすれば、まずぶつけたいのが、ここで辛坊治郎さんが述べた論点だ。 アンネの日記破損事件など、過去の些末(さまつ)なできごとだと一笑に付するような御仁には 「あんたがそんなふうだから、日本の報道自由度は世界72位なんだ」 と一喝したい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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