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Dec 6, 2016
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カテゴリ:美術館・画廊メモ
 「アートとは何か」みたいな論考は山ほどある。しかし、もっと根本的な問いへの答えをほとんど読んだことがない。
 「アーティストはそもそも、金銭上の成功確率も極めて低く、企業年金もつかず老後の安定も望めない<アート作品制作>という行為になぜこれほどのめり込むのか」

 ミハイ・チクセントミハイ著『楽しみの社会学』の序文で、この問題が滔々(とうとう)と論じられていて腑に落ちた。


M・チクセントミハイ著 『楽しみの社会学 ―不安と倦怠を越えて―』 (今村浩明 訳、思索社 昭和54年刊、新思索社から新装版 平成13年刊)

≪遊びに典型的に見られる楽しい経験への没入は、ゲーム以外にもしばしば生ずる。この考えは実に十数年前、制作中の藝術家たちを観察したときに、わたしの心のなかに結晶しはじめたものである。

あるひとつの事柄がとりわけ興味をそそるものとしてわたしの心を打った。絵を描くことから名声も生活の資もほとんど得られないという事実にもかかわらず、わたしが調べた藝術家たちはほとんど熱狂的に彼らの作業に打ち込んでいた。彼らは昼夜を問わず制作し、彼らの生活の中でそれ以外のことは眼中にないかのようであった。

しかし制作が終わるや否や、彼らは自分の絵や彫刻に対するすべての関心を失うようであった。また彼らはお互いの絵や力作に対しても、さほど大きな関心を示さなかった。ほとんどの藝術家は美術館へ行かず、自分の家を美術品で飾ることもせず、自分や友人の作品の美的価値について語り合うことにも次第に退屈し、困惑を感ずるようであった。≫


 このくだりにピンときた。わたしも不思議に感じていたからだ。
 画廊などで会うアーティストと話をしても、彼らは画廊巡りなどという趣味を持っていない。ほかの作家の作品を見てまわるということがほとんどない。並み居るアーティストたちより、商社マンふぜいのわたしのほうがよっぽど多くの藝術作品にふれていた。
 アーティストが、愛する自作品で部屋の壁を埋め尽くしているかというと、そういうこともなくて、部屋の壁に作品が立てかけてあるのは単に「ほかに置場がないから」。置場がない作品はけっこうさばさばと廃棄処分しているようなのである。コレクターにとって、あるまじきことなのだが。

≪彼らが非常に好んだのは、些細な技術上のこと、美術制作に含まれる行為・思考・感覚などのスタイル打破について語ることだった。絵を描くという活動それ自体のなかにある何ものかが彼らを制作させつづけているということが、次第に明らかになってきた。

作品を作る過程が非常に楽しいので、彼らは制作する機会を得るために多くのものを犠牲にしがちであった。

そこには、木枠にキャンバスを張る、絵具のチューブを絞る、粘土をこねる、キャンバスの空白部分に絵具を散らすといった、何らかの身体活動的な要素があった。
制作を進めるうえで、問題を選び取る、主題を決定する、新しい組合せの形式や色・光・空間を試すといった認知的活動があった。
できあがりつつある作品に関して、自分の過去・現在・未来について考えるという情緒的な働きかけがあった。
藝術的過程のこれらすべてが、その魅惑的で構造化された経験のなかに統合されていた。≫


 アーティストの心のなかでは、図らずも、できあがる作品よりも むしろ作品制作のプロセスそのものが 制作活動の主目的となっているのだという事実を発見したわけである。

≪藝術家たちは内発的動機づけの重要性についての手がかりを与えてくれた。彼らの行為は、仕事が生活に楽しさと意味とを与え得ることを暗示した。≫

 著者はこのあと本論で、チェスやロッククライミングなどを取り上げてアンケート調査に基づく社会学的考察を展開する。
 とりわけ読ませるのが、外科手術にたずさわる外科医たちの話。まったく予想外の話だが、外科医にとって外科手術は最高に自己達成感を得られる魅惑のプロセスらしい。










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最終更新日  Dec 6, 2016 05:56:06 PM
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