カテゴリ:美術館・画廊メモ
帯広告や世間の評判でハチャメチャな本かと思っていたが、読んでみたら藝大生たちの話を真摯に聞き書きしたものだった。登場するいちばんの変人は、彫刻科に学ぶ学生さんかもしれない。著者自身の奥さんである。
二宮敦人著 『最後の秘境東京藝大 天才たちのカオスな日常』 (新潮社、平成28年刊) いくつか、はじめて知る業界用語が。 作曲科の入試で。 ≪試験には新曲視唱というものがあります。初見の楽譜が渡されまして、しばらく目を通して、それからその場で歌う、という試験です。いかにリズムや音階を正確に歌えるかがカギになりますね。≫ (52頁) 鍛金にはこんな技法がある。 ≪木目金(もくめがね)という技法がありまして、色合いの違う金属を組み合せて木目のような模様を作る技法なんです。 銅合金に銀とか金をパイみたいに挟んだりして、それをガス炉に入れて800度くらいまで温度を上げて、1日まるまる焼いたら金属がアツアツのうちに出してきてプレス機で物凄い圧力をかけてある程度まで潰します。 冷めないうちに今度は鍛造機のでかいハンマーでガッツンガッツン叩いて潰します。 最後のほうでは手で金槌もって叩きます。 最初に10センチくらいの厚みだった金属の板が、1センチくらいになります。 ここまですると違う金属どうしがくっつき、それをグラインダーや鏨(たがね)で彫ると、色の違う金属がつながった縞模様が見えてきます。 それをさらにローラーにかけて薄い板にします。 すると模様が木目のように見えてくる。これが木目金。 3年生の前期で習う技法です。 日本独自の技法です。江戸時代に考案されたみたいですね。≫ (134~135頁) 動力機械のない江戸時代にこの工程を行っていたとは! ネットで画像検索してみたら、たとえばこんな鍔(つば)。 声楽科で喉のケアは、プロポリス、ボイスケア、龍角散の3派に分かれるが、 ≪本当に調子がわるいときは、のどあめじゃダメなんです。何を使うかっていうと、響声破笛丸(きょうせいはてきがん)。漢方薬なんですが、これはききますね。最終兵器です。≫ (168頁) このかたは、仮面ヒロイン「ブラジャー・ウーマン」。絵画科油画専攻の立花清美さんだそうです。171~183頁をご参照ください。アートにオモテからもウラからも向き合う、すごいひとです。 上の画像はネットから拾ったもので、本のなかにはありません。 声楽科のひとによると ≪声って、成熟してくるのは30歳から40歳くらいと言われているんです。≫ ということは、ミュージカルの役者さん、たとえば笹本玲奈さんなど、これからが いよいよ開花のとき、ということか。 ぼくもたしかに、自分の声をうまく調整できるようになったのは50代からで、それまではやたらと大きな声を出すことしか知らなかったが。 さて、アートって何? ≪知覚できる幅を広げること……かなぁ。≫ (先端藝術表現科 村上愛佳(まなか)さん) ≪ちゃんと役に立つものを作るのは、アートとは違ってきちゃいます。この世にまだないもの、それはだいたい無駄なものなんですけど、それを作るのがアートなんで。 アートはひとつのツール、なんじゃないですかね。人が人であるための。≫ (院 先端藝術表現専攻 植村真さん) ≪その時その時で面白いと思ったことをやっていこうかと。レールに沿って何かをやっていけば成功するとか、そういう世界ではないと思うんです。個人的にやりたいことがあってこそ。他者のニーズとは、あとからすり合わせていけばいいと。≫ (作曲科 山口泰平さん) 勇気がわいてくる名著です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Mar 16, 2017 09:51:47 AM
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