コード感 6
さて、続いて「コード感」第6回です。前回、「これはとりもなおさず、巷で教えられているジャズやポップスの音楽理論が、「和声学」だけに極端に依存しているためです。 なぜかそこの部分だけが強調されてしまうのです。」と申し上げました。実は、僕がこうやって「コード感」として取り扱っている内容は、「対位法」である、というお話をしましたが、これは、バッハやベートーヴェンから、ジャズやシェーンベルクに至るまで、ほとんど普遍の理であると言っても過言ではありません。したがって、トラディショナル(クラシック)の理論と、ジャズやポピュラーの理論の一番の相違点は「和声」ということになり、したがってその部分だけが強調されてしまうのです。しかし、以前に申し上げましたとおり、ジャズ、ジャズの和声学理論の源流は、ロシアの民族楽派に求められます。ジョージ・ガーシュウィンはジョセフ・シリンジャーというウクライナ人(ロシア帝国時代)から音楽理論を学んでいます。そしてこのジョセフ・シリンジャーと言う人、ロシア民俗楽派の長的な存在、リムスキー・コルサコフから音楽理論を学んでいます。シリンジャーの弟子には、ジョージ・ガーシュウィンや、グレン・ミラーのほか、リー・バークという人がいました。リー・バークが建てた学校がシリンジャー・ハウスという音楽学校でしたが、後に自分の名前をひっくり返してバークリーとしたのでした。以下、ウィキペディアからの抜粋です。One of Schillinger's students, Lawrence Berk, founded the Schillinger House of Music, later to be named the Berklee College of Music at Boston, Massachusetts. Schillinger's students also included George Gershwin, Glenn Miller, Robert Emmett Dolan, Carmine Coppola, Vic Mizzy, and Leith Stevens. There has been debate surrounding how many teachers were certified by Schillinger himself. The numbers cited range from seven to twelve certified teachers. Yet, to date, only seven certified teachers of the Schillinger System have been substantiated.(Wikipedia)すなわち、音楽としてクラシックとジャズとはもともと同じ起源を持っており、したがって和声学だけではなく、対位法的観点も重要となります。和声学とは、音楽の縦の構造に関連する内容です。それと比較して対位法は、横の構造に関連する内容ですが、実際には両者とも相互に関連しており、実践的な作曲やインプロビゼーションにおいては、こうした両方の観点から音楽を見る必要があります。図にすると、こんな感じの概念。それでは、なぜジャズの和声がクラシックに比べて複雑なのか?それは、ロシア民俗楽派やジャズでは、ことに音楽の縦の構造が倍音列 Overtone Series という音響工学的な観点から、根音Acoustic Root を中心に体系化されたからです。すなわち、縦の構造において、それまで「2度の転回形は7度であり、両方とも不協和である」とされていた内容について、2度と7度の不協和の度合いの違いを明確にすることが出来たのです。したがって、「2度がマズイ」「7度もオイシクナイ」と繰り返し言っているのは、あくまでも対位法的な観点からであり、実際には、そうしたリッチな和声的構造を生かすコンディションで用いるならば、全く問題ありません。これも順を追って説明したいと思いますが、簡単に言うと、複雑な和声的魅力を引き出すには、むしろ対位法的内容を差し控えること。逆に対位法的な魅力を出すには、複雑な和声的構造を差し控えること、がコツである、といえるでしょう。「コード感」シリーズを初めから読みたい方はこちら。