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カテゴリ:エッセイ、及びおもしろ時事談。
ここは交差点で、赤と黄色の信号機が点滅していたようだ。
その赤の点滅を無視して、一人の青年が走るような形で横断した。 髪を伸ばし、裾にバラバラに鋏を入れたジーパン風の短パンを履いていた。 黄色の信号を徐行しょうとした一台のミニバイクが、急停車して大声を出した。 「危ねぇじゃねぇか、気をつけろっ!」と、怒鳴るバイク。 「うるせぇなっ、そっちも気をつけろいっ!」と、その青年もやり返して来た。 「お前の方は、赤信号だろーっ!」。 「歩行者が、優先だろうがっ!」。 「そうか、それじゃ話し会おうか」と言って、ミニバイクから降りた。 スッタモンだと言い争いをしていたが、どうやら「坊主・坊主」と言う言い方に気分を害したようで、そのバイクの男がつい足で蹴ってそのまま逃走したようである。 このミニバイクの搭乗者は、どうやらどっかのお寺の坊さんのようだった。 頭に来た短パン男が、たまたま警戒中の二人のお巡りさん出会った。 ことの事情を説明したようで、そのお巡りさん達は一応暴行と言うことで本署へ無線連絡をしたようである。 その後の事情を知らない坊さんは、何事もない風にしてスイスイ風を切って街を散策するようにして乗り歩いた。 たどり着いたところは、最近出来たばかりの郊外型健康ラウンドだった。 ここは、「銭湯法」に従った温泉らしくそれでも様々な風呂桶を用意しているところで、特に炭酸風呂や露天風呂が広くしかも風呂桶の数も多く設備されている。 外の露天式広場には、大きな壷方風呂や牛乳風呂、寝風呂、石積み露天風呂、平坦風呂、寝ベンチ、東風休憩小屋などがあり、飽きないように工夫された施設だった。 多分、日頃座ってお経を唱えることが多いためもあってか、一風呂浴びて手足を伸ばして英気を養うつもりだったかも知れない。 ところが、バイクをこの施設の駐車場に止めたはいいがどう言うわけか、この坊さんバイクを置いたまま再び街を歩き出した。 確かにこの施設では、食堂など全てのシステムは100円か500円玉でのセルフサービス式であった。 従って、煩わしさもあってか街中の食堂を選んで食事しょうとしたらしい。 連絡を受けたパトカーが、街中パトロールでこの温泉界隈を流していた。 念のために、不特定多数の人が集まる場所を選んでパトロールする。 そこで、その温泉施設の駐車場を何となくパトロールした。 そこには、あるいはと思われるミニバイクを発見した。 単車に、手を当ててみた。エンジンが、暖かい。 「ははーん、野朗め、ここに入ったな」と言うことで早速フロントへ。 ところが、ここ2,30分内での入客がないと言う。 さては、逃げたかと思い近辺を探索し始めた。 その坊さん、少し斜め加減になって彷徨(さまよ)うようにして路上を行脚していた。 早速の、職務質問とやらに出くわした。 何を思ったかこの坊さん、パトカーの3人のお巡りさんを相手にお経を詠んだ。 「まぁまぁ、分かった、ご利益は後にしょう。 で、先ず免許証を出してもらいましょう」と、お巡りさん。 「天罰を恐れないでは、後々厄害が起きまするぞ。 仏法では、すべて帰依により許認可ものは神から授かり保障されております」と言って、中々その指示に従わなかった。 結局、酔っ払い運転と無免許にて現行犯逮捕。 ついでに、「暴行罪」と言うおまけ付きだった。 拘留中の取調べでは、なんと高校時代から34、5歳までの無免許運転だった。 今では、和尚さんの運転は常識になっている。 バイクは勿論のこと、乗用車での檀家への通行は欠かせないのが一般である。 「日頃から乗っている関係から、自分でも免許がないと言う意識が薄かった」と言う供述であったようだ。 「そうか、あの坊主野朗、よくチョイチョイ女たらしに街に出て来おったな。 そうだったのか、免許証なぁ、ちっとも気がつかなかったなぁ。 いつだったか、墓石の紹介を頼みに行ったことがあったが、あの坊主め、お布施の一つも出したことのねぇ石屋とは取引しねぇと吠えやがった。 ざまぁ見ろーてんだ」と、例の墓石屋の村中大将。 「こともあろうに、仏に仕える身のものがよ、社会の常識も身につけていねぇとは、仏の風上にも置けねぇ話しだろうて。 坊主の世界も、箍(たが)がゆるんだなぁ。 そうだ、この俺がその寺にお勤めしょうか?」。 「坊主の認定があるのかい?」と、聞いてみた。 「そんなもの、A善寺のお墨つけがありゃなれるさ。 どうせ、生くさ坊主が多い世界だ。俺も、お経は詠めるからな」。 「再就職か?」。 「いや、あの寺の林にゃ、筍(たけのこ)が出るんだよな、いい商売になるんださ」。 この男、何でも商売と繋ぎ合わせて考える隙のない人である。 「坊主とて 法治の緩みは 許さない」。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2014.05.09 19:08:30
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