「みんな、味の痴呆症か? 偽装食材の功罪」、
コンビニを経営しているわが友人が、奇妙なことを言い出した。 と思ったが、これは決して奇妙なことでないお話しなのだった。 「おにぎりはさ、関東と関西では大体にして呼び名からして違うんもんな」。 「あん、呼び名から違う?」と、つい引っ掛った。 「関東はさ、おにぎりで関西はおむすびだもんな」と言う。 「なるほど、そう言えやぁそのようだな」。 「それによ、形も違うし巻物も違うんだよな。 要するに、三角で海苔巻きは関東風で丸くてと言うか俵形で海苔の下にゴマをまぶすのが、関西風と言うことになるんだな」。 「で、わが地方はどっちなんだよ?」。 「まぁ、あれだな、どちらかと言えやぁ関東風と言うところかな。 もっともよ、俵風もあるしボール型や太鼓型だってあるわさ。 その地方によっちゃぁさ、こうした形の物もあるさな」。 「じゃー寿司はどうなんだ?」。 「そう来たか、関東は四角型で関西はどっちかと言えば三角かな。 もっともよ、最近じゃあれだな、長いカマボコを三つくらいに切ったような奴もあるがな。 なんたって、おにぎりは主力商品だな、弁当と」。 「そうなんだ、あれだろうよ、インスタントラーメンだって結構売れるんじゃねぇのかい?」。 「おー、いいところに気がついたな。 このラーメンだがな、やはり関東と関西じゃタレが違うんだぞ」。 「なにーっ、そんなことがあるんだ?」。 「例えばさ、日清のどん兵衛なんかさ、コクの表示をしているんだぜ。 東日本はさ、かつおと昆布のまろやかさと濃い口醤油でコクのあるツユだ。 西日本はさ、どちらかと言えば薄口醤油味で風味を柔らかい旨みツユというようにな。 この違いはさ、関東はかつお節から関西は昆布からダシをとると言う違いだな。 もっともよ、勝男武士と言うことから関東では鰹を使ったと言う説もあるがな」。 「なーるほど、勝つ男の武士か。これが、江戸風な訳だ?」。 「それもあるがさ、本来はさ、昆布の産地は北海道なんだがさ、元々は東海岸を通らずに日本海を胃袋都市の大阪に運ばれたんだな。 よく言うじゃねぇか、大阪は天下の台所ってさ。 そんな訳で大阪はさ、昆布の加工都市として発達した訳さ。 塩こんぶのお茶漬けとかさ、とろろ昆布のみそ汁なんてぃのが食卓をポピュラーにしたと言うわけさ」。 「ほほー、中々に勉強したな。 ただ売るんじゃなくあれか、能書きまで売る気かい?」。 「バカ言うな、地域的感知もメーカーは努力しているんだと言うことを言いたかっただけよ」。 「じゃーさ、北陸なんかどうなんだ?」。 「そうか、そう来たか。 このどん兵衛の場合はさ、鈴鹿山脈や関ヶ原辺りから富山辺りまでに味の変化があるらしいな。 ちょっとした地域でもよ、コク味が違うらしくてっな、あとはその家のお好みしだいと言うことのようだな。 ついでだがさ、エースコックの力うどんとかさ、マルちゃんの赤いきつねなども関東関西で違うんだぜ。 あのよ、念のためにな、パッケージのよ、横の方にさエースコックはO,TとかやマルちゃんはE,Wとかとさ、表示されているんだよな。 今度、ゆっくり眺めてみな、な? 味を変えて見てぇときはよ、生卵とネギを大目に入れて見な。 ガラリと味が変わるぜ、な?」。 「そばとうどんの違いもあるのかな?」。 「そうよ、関東はソバで関西と四国はうどんよ。 元々はよ、気候風土の関係でな、北陸や東日本はさ、寒冷地帯で主に育ち易いソバを栽培したわけだ。 従って、自然と地域的な好みになってしまったんだよな。 きつねうどんとかはさ、要するに油揚げの入ったものだがソバを含めて関東風でよ、天かすの入ったものが狸ソバあるいは狸うどんとか言うが、これは関西風とかと呼んでいるな。 もっともよ、関西じゃーさ、天かす何てぇもんはタダのようだな。 そんな訳でさ、はっきりとした天かすの入ったメニューは無いと聞いたな。 関東から信州、あるいは寒冷地の東北で言う呼び名のようだな」。 「なんと、東日本の方だけでの化かし合いかよ」。 「ハハハハ、うめぇこと言うな、確かに味の化かし合いだな」と、彼は声高に笑っていた。 日頃、何も気をつけないで文句無く買っている物だが、こうした能書きの隠し味のあることを教えられたようなものだった。 さすがに、店長としても合格である。 が、その製造元が今問題になった一時期があった。 赤福やお福餅とか、先には白い恋人やミートから比内鳥の果てまで、最後にはJRまでこれに参加したみたいであった。 今でさえも、まだまだ数え切れないほどの期限表示違反や偽装表示それに産地偽装などで騒がられている。 がしかし、これで誰もが腹痛や下痢症状を訴えた人はいないからこれもまた不思議なことだ。 マスコミの、過剰な報道合戦のような気もしないでもないが、一応飲食業界に警鐘を鳴らす意味での報道かも知れない。 企業破壊とは言わないが、業界の相当数の社員の運命も存在することに留意したいものである。 「そこを行く人は、偽物を作っている会社の人だよ」と後ろ指を指されないようにしてあげて欲しいものだ。 また、節度ある報道をも期待してやまない。 もっとも、企業側の倫理の確立に急務を要することではあるが。 一億総国民が、「味の総痴呆症」にさせられる思いもする。 「右ならい させる報道に 踊らされ」でもあるまいが、食の安全は勿論なことだが偽装の無い業界であって欲しいものである。