佐藤祐一のブログ

同じ環境で芝居をやっていた友人が亡くなって
先週荼毘に付してきました。
子役時代から演技をやり続けて代表作もある
現役真っ盛りの役者です。
僕がT君と初めて会ったのは、彼がその代表作シリーズに出演中。
職場の先輩と上手くいかず問題を起こした（役上の）彼を
補導する警察官役で、長い連続ドラマの中の
僕は二回のみ出演。レギュラーで活き活きとした
表情を画面に定着させているT君を
眩しく、うらやましく、内心嫉妬しつつ見てました。

その後T君がウチの事務所に所属する事になり再会。
話しをするようになって最初はちょっと壁を作ってるような
硬質な受け答えだったけど、それでもその言外に
どんなつもりでそう言ってるのかがドンドン伝わってくるような
空気感を身にまとっていて、
回を重ねていろいろおしゃべりするようになると
それを一層顕著に感じました。
「サトラレ」って漫画があったけど、あんな感じ。
媚びてるわけでも説明的なわけでもないのに
気持ちの動きが周りに伝染するような・・・
「こういうの役者体質って言うんだろか」
T君と会う何度かに一回は必ず
そんな言葉を連想してました。

最後に会ったのは今年の三月、井荻のスタジオ。
出番は一緒じゃなかったのだけど
丁度双方の撮影が押していたもので
楽屋で2時間近くおしゃべり。
金兵衛のお弁当一人で食べるのは恥ずかしかったので
腹減ってないって云うのに隣で食わせながら・・・
丁度僕が1月の「明日のアトム」を終えた後
いろんな事があって、一度はあきらめた「小指と殺し屋たち」の
舞台にようやく出られる事が決まったところだったので
舞台の話しばっかり、芝居の話しばっかりしていた。
T君もこのところ舞台はやってないのだけど
またやりたい、舞台やって自分を見つめ直したい
やっぱり時々自分を追い込みたくなりますよね・・・・・
僕に付き合っていっぱい話しを聞かせてくれた。

それから十日経たない内に事故に遭ってしまった。
ICUは見舞いが許される時間がわずかに限られていて
駅まで着いた時には時間切れな事も。
先日の舞台の劇場のすぐ近くが病院だったのに
開場時間と見事に被る面会時間だったので行けなくて。
でも楽屋の鏡前で、
「芝居が好きだし、舞台もまたやりたい」
あの時そう云った声を何度も聞いたような気がした。

足りない。
どのみち足りなかったんだ。
一生なんかじゃ足りない。
仮にあと何年何十年生きて
その間現役の役者でい続けられたとしても
T君のやりたかった事何もかもを満たすには
結局足りはしなかったのだろうと思う。
ずっと芝居が好きで、だからこそずっと満足出来なくて
いつまでもいつまでも、足りないもっともっとと
自分を掘り下げたがる生き方を彼はしたかったのだと思うし
事実そういう姿勢で駆け抜けたのだ。

三十三歳で逝かねばならなかった無念は
察するに余りあるけれど
Tが自分の芝居に対し満足するのには
例えどんなに時間が長かったとしても
どのみち一生なんかじゃ足りなかったに違いない。
だから短さを嘆くのはもうやめようと思う。
時間の実際の長さではなく
現役の役者として
Tが渇望し続けた事
僕から見てうらやましい代表作を残した事
燃えるような情熱を持ち続けていた事
人懐っこい笑顔と考えて話しだす前の
ちょっと困ったような口元の印象と共に
それらだけに思いを馳せたい。
僕が実際に見聞きし感じた事実だけに。
合掌。