インフルエンザ脳症は何故日本でしか起こらないのか?
インフルエンザ脳症は日本でしか起こっていない病氣ですインフルエンザの臨床経過中に発症した脳炎・脳症の重症化と解熱剤の使用について「インフルエンザ脳炎・脳症の臨床疫学的研究班」(班長:森島恒雄 名古屋大学医学部教授)より以下の報告を受けた。1 平成11年1月から3月までにインフルエンザの臨床経過中に脳炎・脳症を発症した事例に対してアンケート調査を実施し、解析が行えた181例(うち小児170例)について解熱剤の使用の関連性について検討を行った。2 その結果、ジクロフェナクナトリウム又はメフェナム酸が使用された症例では使用していない症例に比較して死亡率が高かった(表1)。 しかしながら、インフルエンザ脳炎・脳症においては発熱が高くなるほど死亡率が高くなることが知られており、ジクロフェナクナトリウム又はメフェナム酸はこうした重症例の解熱に使用される傾向にあることを踏まえ、さらに統計的な解析を行ったところ、これらの解熱剤とインフルエンザ脳炎・脳症による死亡について、わずかではあるが有意な結果を得た(表2)。3 本研究は、今後更なる研究が必要であり、これらの解熱剤とインフルエンザ脳炎・脳症による死亡との関連については、結論的なことは言えない状況と考える。 インフルエンザ脳炎・脳症の臨床疫学的研究班の補足•(1) インフルエンザ脳炎・脳症において発熱が高くなる程予後は悪くなります。(42度以上では100%死亡、41度以上では同42%)(2)一般に今回問題となったジクロフェナクナトリウムやメフェナム酸はこうした熱の下がりにくい子どもたちに使われる傾向にあります。(3) したがって表1の解釈にはこの点に配慮する必要があります。(4) 発熱時の最高体温を含めた多変量解析がおこなわれたのは、こうした様々な因子を考えにいれて評価する必要があると判断したためです。(5) 多変量解析の結果は表2に示しましたように、インフルエンザ脳炎・脳症の死亡と解熱剤のあるものに有意な差がでてまいりましたので、厚生省にご報告した次第ですが、その有意差はわずかなものでした。(6) また、重要な点は、解熱剤を使用しない症例でも25.4%死亡し、また比較的安全と思われるアセトアミノフェンでも29.5%死亡が認められており、解熱剤だけが原因でこの病気が起きるわけではありません。新しい世紀・今後のウイルスは、確実に呼吸器系に関するものが生き残ります。いつスーパーウイルス、キメラ等で登場するか解らない状態です。先生方と真剣に対応するスタイルを整えたいと感じます。Q.ワクチンの効果は如何ですか?•A.メディアがワクチンは効かないと叩いたものですから、ワクチン業界がやる気をなくしたのが現状です。公的資金を銀行に使うのなら、国が買い上げる位の対策が必要だと考えます。ライノウイルスは33℃では良く増えますが37℃では増えない、しかも百十位の抗原系がある。鼻かぜを良く引くと言うのは、鼻がその位の温度になっている。概念 1890年(明治23年)にアジアかぜが世界的に大流行した頃から、我が国ではインフルエンザのことを流行性感冒(流感)と呼ぶことが定着してきた。1918年には、スペインかぜが世界各地で猛威をふるい、全世界の罹患者数6億、死亡者は2,000-4,000 万人にのぼったことが推定されている。我が国には大正8 9(1919-1920)年の冬に流行が持ち込まれ、罹患者は2,300 万人、死者は38万人に及んだといわれる。当時の新聞には「流感の恐怖時代襲来す-一刻も早く予防注射をせよ-」という見出しが見られる。 ヒトのインフルエンザウイルスは、1933年Smith,Andrews,Laidlow らによって初めて分離されたが1)、そのきっかけとなったのは、Shope によるブタのインフルエンザからのウイルス分離であるといわれている2)。ウイルス分離後はワクチンの開発研究も進み、1940年代に米国では不活化ワクチンが実用化された。現在用いられている赤血球凝集素(HA)を利用したコンポーネント型ワクチンが我が国で実用化されたのは、1972年である。 60年も前にウイルスが分離され、ウイルスの研究が進められ、ワクチンも早い時期から実用化され改良が続けられているにもかかわらず、いまだにインフルエンザは世界中いたるところで流行が見られている。また膨大な研究がなされているにもかかわらず、流行状況やその把握、感染と免疫のメカニズム、ウイルスが変異をしていく理由、予防方法などインフルエンザの基礎は、残念ながら十分に解明されているとはいえない。いまだに残されている最大級の人類の疫病といっても良い程のインフルエンザに対し、もっと多くの基礎的知識を集積し、十分な防疫体制を確立出来るように、我々は努力をする必要があろう。 疫学状況突然に現われるインフルエンザは、狭い地域からより広い地域、県・地方・国を越えて流行があっという間に広がり、学校や仕事を休むものが増えてくる。医療機関では外来患者数の増加とともに、インフルエンザとは断定されないが、肺炎・クループ症状・痙攣・心不全・脳炎・脳症などの入院数も増加してくる。インフルエンザの流行期には、「超過死亡」という現象が見られることが確認されている。WHO(World Health Organization)や CDC(Centers for Disease Control/USA)では、インフルエンザ流行の指標としてこの現象が採用されており、我が国でも同様の現象が見られることが確認されている3)4)。超過死亡とは、その死因は統計上インフルエンザとされていないが、高齢者や基礎疾患を有するものの死亡率がインフルエンザの流行に伴って上昇する現象であり、インフルエンザは「死ぬことのある流行性疾患」としての認識が必要である。 インフルエンザウイルスは、ウイルス粒子内の、核蛋白複合体の抗原性の違いから、A・B・Cの3型に分けられ、流行的広がりを見せるのはA・B型である。A型ウイルス粒子表面には赤血球凝集素(HA)とノイラミニデース(NA)という糖蛋白があり、HAには15の亜型が、NAには9つの亜型がある。これらは様々な組み合わせをして、ヒト以外にもブタやトリなどその他の宿主に広く分布しているので、A型インフルエンザウイルスは、人畜共通感染症としてとらえられる。そして最近では、渡り鳥がインフルエンザウイルスの運び屋として注目を浴びている。 A型は数年から数10年単位で流行が見られるが、突然別の亜型に主流が取って代わることがある(不連続抗原変異=antigenic shift)。1918年のスペインかぜはH1N1で39年間続き、1957年からはアジア風邪(H2N2 ) が11年続いた。その後1968年に香港風邪(H3N2/HongKong) が現われ、ついで1977年ソ連風邪(H1N1/USSR)が加わり、現在はA型のH3N2とH1N1およびB型の3種のインフルエンザウイルスが、世界中で共通した流行株となっている。 HAとNAは、同一亜型内でわずかな抗原性を変化させるため、A型インフルエンザは巧みに宿主の免疫機構から逃れて流行し続ける(連続抗原変異=antigenic drift)。つまり,抗原性が変化すればヒトはそれぞれのインフルエンザウイルスの感染をたとえ短期間であっても何回も受けることになり、ワクチンも抗原性が異なったインフルエンザの流行に対しては期待したほどの効果が現われないことになる。 日本では冬になると、国中のいたるところでインフルエンザが見られる。北半球にある温帯地域以北の国々では、おおむね1~2月頃が流行のピークとなるが、南半球では7~8月頃の冬期に流行が見られる。熱帯・亜熱帯地域では冬というシーズンは当然ないが、雨季を中心としてインフルエンザはやはり流行する。我が国では多くの人々の、頭の中からその重要性と恐ろしさが薄らぎつつあるインフルエンザであるが(実態はそうではないのだが)、地球的規模では、いまだに残されている最大級の人類の疫病といって言い過ぎではない。世界のいたるところにインフルエンザウイルスははびこっており、国際化する医療の中でインフルエンザは国際共通感染症として捉えられるべきであろう。 WHO では世界各地のインフルエンザ情報を収集し、WHO 発行の Weekly Epidemiological Record (WER)に適時報告をし、さらに毎年 Influenza in the world として年間のまとめを報告している。また英・米・オーストラリアそして日本にWHO 協力センターとしてインフルエンザウイルスに関する研究機関を定め(日本では国立感染症研究所ウイルス部内)、広く疫学情報・研究情報の交換を図っている(著者は、以前WHO 西太平洋地域事務局-マニラ-で、インフルエンザを含む伝染性疾患の予防対策を担当していた)。 診断・治療の進歩 発熱・頭痛・全身の倦怠感・筋関節痛などが突然現われ、咳・鼻汁などがこれに続き、約1週間で軽快するのが典型的なインフルエンザの症状である。その他のいわゆる風邪症候群に比べて全身症状が強いのが特徴であるが、正確な診断にはウイルス学的な裏付けが必要である。インフルエンザ流行期に風邪症状のあるものにすべてついて安易に「インフルエンザ」と断定することは、疫学状況を正確に把握し、ワクチンの効果を判定するに当たって誤解を生じかねないので、注意が必要である。すべてのかぜ症例に検査を行なうことは非現実的であるが、確定診断がなされていない症例(多くの場合)について診断書などの文書の発行を求められた場合には、著者は「インフルエンザ様疾患」と記載し、確定されたインフルエンザウイルス感染症とは区別するようにしている。 最近はコマーシャルラボなどでも血清ウイルス抗体の測定が可能になり(保険適用)、ウイルス学的診断が日常の臨床の中で容易に出来るようになってきた。CF抗体の測定:急性期から1週間以上の間隔で採取したペア血清でCF抗体の4倍以上の上昇を見れば、診断が確定する。測定方法は容易であるが、CF抗体ではインフルエンザAまたはB型の区別ができてもH1N1かH3N2かなどの、A型間の亜型の鑑別は出来ず、また感受性にやや乏しい欠点がある。HI抗体の測定:同じくペア血清について抗体の測定を行なうが、感受性も良く、A型の亜型間の診断も可能であり、実用的である。ただし測定に用いた抗原以外の株によるインフルエンザウイルス感染(流行株以外の感染など)のような場合には、抗体の上昇が見られないことがあるので、注意が必要である。咽頭拭い液やうがい液を材料にしウイルスの分離ができれば、診断としてはもっとも信頼があるが、まだ一般的とは言えない。最近はpolymerase chain reaction (PCR)法を用いてウイルスゲノムを検出することも可能となってきたが、これもまだ特殊検査の段階である。 インフルエンザウイルスに対する特異的療法として、抗ウイルス剤による治療が挙げられる。アマンタジン(Amantadine)はインフルエンザウイルスの脱殻、侵入を阻止し、抗ウイルス作用を発揮する。アマンタジンの誘導体であるリマンタジン(Rimantadine) も、より強い抗ウイルス作用を表わす。臨床的には両者ともインフルエンザAウイルス感染には効果があるが、インフルエンザBに対しては無効である。アマンタジンがA型インフルエンザの発症を低率に抑えることが出来たとの報告も最近見られる。我が国では、アマンタジンは臨床的に評価された精神活動改善作用から、抗パーキンソン剤あるいは脳梗塞に伴う意欲・自発性低下の改善などにその適応が認められているが、抗ウイルス剤としての適応は認められていない。