五苓散
五苓散証 条文に沢瀉(甘寒)・猪苓(甘平)・伏苓(甘平)・白朮(苦温)・桂枝(辛温)を末となし、白飲にて服すと書いてあります。この白飲というのが重要です。 発熱、汗出、口渇、小便不利、嘔吐、下痢、頭痛等の症状があります。熱がなくても使えます。ただし口渇と小便不利は必ずあります。小便が出ないために下痢もします。多くは水様性で腹痛はありません。嘔吐は氣の逆上の為ですから、あまりゲエゲエ言わず、すんなりと嘔吐します。 吐き気・のどの渇き・下痢・小便不利のうち2つあれば五苓散です。現代人に非常に多いのが、水をのんで汗かく必要があるのに冷房で閉じ込めると水泡ができます。病院でも冷房で汗をとめて熱を中に閉じ込めてしまいます。水泡は麻杏薏甘湯か五苓散で殆ど治ります。ヘルペスや水イボとか小兒ストロフルスなどに著効があります。水の停滞があって、血のめぐりを抑えているような場合は、まず『五苓散』で水をさばきます。解熱劑などでライ症候群になった時も五苓散です。腎不全や透析寸前の方も五苓散です虚ならば真武湯です。二日酔いは小便不利・のどの渇き・吐き気がありますので五苓散でよいのです。 原典からの紹介(ダイジェスト)①太陽病中篇 41条 「太陽病、汗を発して後、大いに汗いてで胃中乾き煩躁して眠るを得ず、水を飲むを得んと欲するものは、少々与え之を飲ませ、胃気を和さしむれば則地位癒ゆ。若し脈浮、小便不利、微熱、消渇するものは五苓散之をつかさどる」② 同 42条 「汗を発し終わり、脈浮数にして煩渇するものは、五苓散之をつかさどる」③ 同 43条 「傷寒汗出て渇するものは五苓散、渇せざるものは茯苓甘草湯之をつかさどる」④ 同 44条 「中風発熱後六七、解せずして煩し、表裏の証あり、渇して水を飲まんと欲し、水入れば吐するもの、名づけて水逆という、五苓散之をつかさどる」⑤太陽病下篇 14条 「病、陽にありまさに汗をもってこれを解するに応ずるに、反って冷水をもって之にふき、若しくは之れに灌げば、その熱しりぞけられて去るを得ず、いよいよ更にますます煩し、肉上粟起す、おもうに水を飲まんと欲して反って渇せざるものは文蛤散を服す、若しいえざるものは五苓散を与う、寒實結胸し、熱なき者は、三物小陥胸湯を与う、白散もまた服すべし」⑥太陽病下篇 29条 「もとこれをもっての故に、心下痞し、瀉心湯を与う。痞、げせずその人渇して、口燥煩し、小便不利するものは五苓散をつかさどる」⑦陽明病篇 65条 ⑧霍亂病篇 6条 ⑨痰飲咳嗽病 32条 に掲載されています。 詳細掲載 こまかく見て行きます☯太陽病中篇41太陽病發汗後、大いに汗出で胃中乾き、煩燥眠(はんそうねむ)るを得ず。水を飮むを得(え)んと欲する者には少少與(しょうしょうあた)へ之(これ)を飮ませ、胃氣をして和せしむれば則ち愈ゆ。若(も)し脈浮、小便不利、微熱消渴するものは五苓散を與へて之を主どる。解訳 太陽の経を病んでいるので、汗を発してやったところが、汗が大変に出て、そのために胃の中が乾いてしまい、渇のためにあつ苦しくて眠ることができなくなってしまっているもので、水を飲みたがっているものには、少しく水を与えてやって、胃をうるおして、胃気を調和してやれば、それで癒ゆるのである。もしその場合に、水を与えてやっても治らずに、脈が浮いて小便の出が悪く、微しく熱があって、やたらに咽の渴く者には、五苓散を与えれば主治する。ここで大切な東洋医学的な理論は、発汗すると、胃の中が渇くということで、発汗と胃の関係大切なことである。 五苓散の処方猪苓(甘平)1.8g、沢瀉(甘寒)3.5g、茯苓(甘平)1.8g、桂枝(辛温)1.2g、白朮(苦温)1.8g右の五味を末となし、1回に2gをおも湯を以ってよくかきまぜて、1日3回服用する。服用後多量の暖かい湯を飲んで、汗が出ればそれで癒ゆるのである。薬嚢に曰く、熱があって、汗が出で咽が渴いて水を欲しがり、小便の出ない者。小便少なく、咽が渴いて水を飲み、水を飲めば忽(たちま)ちもどす者.非常に水を欲しがりてうるさく、小便の利せざる者。頭やからだに痛みがあり熱があって悪寒し、汗出でて咽渴き、激しく水を飲みたがり、飲めばまた吐く者。本方の一番の目標は、渇と小便の不利とに有り、と書かれている。 ☯太陽病中篇42汗を發し已(おわり)て、脈浮数、煩渴(はんかつ)する者は五苓散之を主どる。解訳 汗を発しおわっても、脈が浮いて早く打っていて、咽がやたらに渴いて苦しいものには、五苓散が主治します。発汗しても脈が浮数であるということは、表の熱がとれずに、熱盛んの意を現わしていることを考えるべし。 ☯太陽病中篇43傷寒汗出でて渴(かつ)する者は、五苓散之を主どる。渴せざる者は、茯苓甘草湯之を主どる。解訳 寒に侵されて発熱し、汗が出て咽が渴く者は、五苓散が主治します。発熱して汗が出て、咽の渇かないものは、茯苓甘草湯が主治します。茯苓甘草湯の処方茯苓(甘平)2g、桂枝(辛温)2g、生姜(辛温)3g、甘草(甘平)1g右の四味を、水一60mlを以って80mlに煮つめ滓を去り三回に分けて温服する。薬嚢に曰く、発熱あり汗出でて咽が乾かず、あるいは頭痛あり、あるいは頭痛せず、また手足冷えやすく、他に異状なくして、唯心下にずきんずきんと動悸ある者。あるいは肩こり、あるいは胸焼けする者等によし、とある。 ☯太陽病中篇44中風發熱六七日解せずして煩し、表裏の證有り、渴して水を飮まんと欲し、水入れば則ち吐する者は名づけて水(すい)逆(ぎゃく)と曰う。五苓散之を主どる。解訳 風にあてられて熱が出、六、七日目になっても治らずに苦しがり、表の証も裏の証もあって、咽が渴いて水を飲みたがり、水を飲みこむとすぐに吐いてしまうものを水逆と名づけるのである。水逆には五苓散が主治する。 ☯太陽病下篇 14条病、 陽に在り應(まさ)に汗を以(もっ)て之を解するに應ずるを、反って冷水を以(もっ)て之に潠(ふ)き、若しくは之に灌(そそ)げば 其の熱却(しりぞ)けられて去さるを得ず。 彌(いよいよ)更(さら)に益す煩し、肉上(にくじょう)粟(ぞく)起(き)す 。意(おも)るに水を飮まんと欲して、反(かえ)っ て渴せざる者は文(ぶん)蛤散(こうさん)を服す。 若し差えざる者は五苓散を與(あた)ふ 。寒實結胸し、熱證無き者は三 物小陷胸湯を與ふ。 解訳 病邪が表にある時には、 発汗によって病を解すべきであるのに、 あついからといって冷水を 病人の体にふきかけたり、またはそそぎかけると、その熱が不安定になって、表にこもった熱がとれると が できなくなって、一層ひどくなって熱のために苦しがるようになる。そのために皮膚に粟の粒のようなものが 全身またはあっちこっちに出来てしまう 。そして気持では水を飲みたいような感じであるが、かえって水は 飲みこめないような者には、文蛤散を服用させなさい。文蛤散を服用しても治らない者には、五苓散を 与えてやりなさい。その場合に寒が實して、熱が胸の中に追い込まれて結するようになり、熱発の証が ないものには、三物小陷胸湯を与えてやりなさい。この場合に白散の証があれば、また服用してもよい。 文蛤散の処方 文蛤 (苦平)5g。右の一味を杵(つい)いて散となし、沸湯20mlを用いて散2gに和して服用する。 文蛤散の証をあげれば、身体に熱があって、汗は出でず、寒気もあり、無性に水を飲みたがるもの、 ただしこれは風邪の初期などに自然に発する証候ではない。無理に熱を体内に追い込んだりした時 に多く発する証状である。また平常胃が悪く、食欲はあるけれども多く食することが出来ず、むやみに 水を飲みたがり、 いくら飲んでも飲みたりないもの。 ここで疑問が出ることであろうと思う。文蛤散の証は渴があるけれども、この条文では渴せずとあるがおかしいと思われるかも知れないが、条文では発汗すべきをさせないために、いろいろの病証が出るのですから、体内には水分があるために渴は生じないだ けであるから、文蛤散でよいのある。 桔梗白散の処方 桔梗(辛微温)、貝母(ばいも)(辛平)各三g、巴(は)豆(ず)(辛温)一g。右の三味を粉末となし、巴豆を臼の中に入れてよくつき合せて散 となし、強壮な人は一回に0.5gを服用する。弱ってつかれた者は適宜その量を減じなさい。病邪が横隔膜の上にあるものは必ず吐する。病邪が横隔膜の下にあるものは必ず下痢をする。下痢をしないものには、あたたかいお粥、茶碗一杯を服用させなさい。下痢をしすぎて止まらないものは、冷めたいお粥を一杯くらい服用させれば下痢は止まるのである。 身体があつくて、とりはだが出て治らずに寒がっているようである。そんな者に、もし水をふりかけてみたり、洗ったりすると、 ますます熱がおびやかされて、おちつきを失い、出ないようになってしまう。当然身体が熱くなって汗が出るはずであるのに、汗が出ないから苦しがるのである。たとえば汗が出おわって、腹中が痛むようなものには、芍薬3gを加え、上法のようにしなさい。発汗後は表が虚であるから、仕上げの薬方として用う時あり、 桂枝湯に芍薬3gを加えるのではなかろうか。薬嚢に巴豆を粉末にする方法が記されている。参考にあげれば、「堅いその外皮及び薄い内皮をとり去り、中味を2つに割り内に 在る薄い胚葉を除き、あぶりて少しあぶらぎったところで、乳鉢 または薬研を用いてネトネトにすりつぶす。 これを桔梗と貝母との末に混じ、よく密に和して製する。 桔梗白散の証は、咳多く息苦しく胸中脹り熱少ない割に寒気劇しく、咳するごとに痰があって、久しく差えない時、臭味のある痰 を吐く者がある。胸中脹りつかえて息苦しいのが本方の特徴なり」と記されている。 桔梗白散は、金匱要略方の肺痿肺癰咳漱上気病篇にもある。 ☯太陽病下篇 29条本(もと)、之を下すを以(もっ)ての故(ゆえ)に心下痞し、瀉心湯を與へて痞(ひ) 解(げ)せず、其の人渴して口(くち)燥煩(そうはん)小便不利する者は五苓散之を主どる。解訳 本来下したために心下痞が生じたものは、瀉心湯を与えてやるべきである。それでも心下痞が治らずに病人が咽がかわいて水をのみたがり、口がかわいて苦しがり、小便の出の悪いものには 五苓散が主治するのである。 ☯陽明病篇 65条太陽病、寸緩(すんかん)、関(かん)浮(ふ)、尺弱、其の人發熱し汗(あせ)出(いで)で復(ま)た悪寒し、嘔(おう)せず但(た)だ心(しん)下痞(かひ)する者は此れ醫之(いこれ)を下したるを以て也。もし其の下さざる者、病人悪寒せずして渴(かつ)する者は此れ轉(てん)じて陽明に属(ぞく)する也(なり)。小便数(さく)なる者は大便必ず鞕く、更衣(こうい)せざること十日なるも苦(くる)しむ所無き也渴(かつ)して水を飮まんと欲すれば少少之(しょうしょうこれ)を與(あた)え、但(た)だ法(ほう)を以て之を救う。渴する者は五苓散に宜し。解訳 太陽病で寸口の脈が緩やかで関上の脈が浮いて、尺脈が弱い状態の人が熱を発して汗が出て、その上に悪寒がして嘔き気はなく、ただみずおちのあたりにつかえのある者は、これは医者が下しをかけたためにこのような症状を現わしたのである。もしも病人を下していないもので悪寒せずにのどの渴く者は、これは自然に病邪が内に入ってしまったのであって、陽明病になったのである。小便の回数が多い者は大便が必ずかたくなって便通がないことが十日もつづいても別に苦しい症状はない。のどが渴いて水を飲みたがるものには、少しずっ水を与えてやりなさい。そして正しい治方で病をなおしてやりなさい。のどの渴くものには五苓散がよろしい。 霍亂病篇 6条 ☯霍乱(かくらん)頭痛(ずつう)、發熱、身(しん)疼痛(とうつう)、熱多く、水を飮まんと欲する者は五苓散之を主どる。寒(かん)多(おお)く、水を用(もち)いざる者は、理中丸之を主どる。解訳 霍乱で頭痛して熱を発し、身体がうずき痛み熱の症状が多くて水を飲みたがる者には、五苓散が主治します。寒の症状が多くて水を呑みたがらぬのは、理中丸が主治する。理中丸の処方人参(甘微寒)、甘草(甘平)、白朮(苦温)、乾姜(辛温)各3g。右の4味をついてふるい粉末として、蜜とよく混和して鶏卵の黄味ぐらいの大きさにして、沸湯数芍の中に一丸を入れてとく、砕いて温かい中に服用する。昼間に3回、夜間に2回服用する。服用して腹中が温まらないものは三、四丸を余分に服用させる。しかし効果は湯薬には及ばない。湯薬の煎じる方法は四味を三gずつ取り、水三320mlを以て煮て120mlに煮つめ滓を去り、1日3回に分けて温服する。加減の法はもし臍の上が脈をうつものは腎気の異常による動悸である。朮を去って桂枝(辛温)四gを加えなさい。吐くことの多い者には朮を去って生姜(辛温)三gを加えなさい。下ることの多いものは、かえって朮を用いなさい。動悸のする者は、茯苓(甘平)2gを加えなさい。のどがかわいて、水を欲しがるものは、朮(苦温)を加えて全量を4.5gとしなさい。腹中が痛むものは、人参(甘微寒)を加えて4.5gとする。腹中の冷えるものは、乾姜(辛温)を加えて四・五gとする。腹満する者は、朮(苦温)を除いて炮附子(辛温)0.2gを加えなさい。湯を服用して後2、30分してからあたたかい粥を茶わんに一杯くらい服んで身体を温めなさい。衣服をはいではならない。 痰飲咳嗽病 32条☯假令(たとえ)ば瘦(そう)人(じん)臍下(さいか)に悸(き)有り涎(えん)沫(ばつ)を吐して癲眩(ていげん)するは此れ水(みず)也、五苓散之を主どる。解訳 もしも吐く人が、やせていて臍の下(下腹部)に動悸があり、よだれやあわのようなつばをはいて、ひっくりかえるような激しいめまいのするものは、水から来ているのである。五苓散が主治します。五苓散の処方沢瀉(甘寒)三・〇五g猪苓(甘平)一・八g茯苓(甘平)一・八g白朮(苦温)一・八g桂枝(辛温)一・二g五味を末となし、おもゆにて二gを服用させる。一日三回服用する。服用後多量のあたたかい湯を飲むと、汗が出て癒ゆるのである。