朕は国家なり?
小泉流選挙 問題を残す強権的手法 郵政民営化関連法案に反対した自民党衆院議員に党の公認はない―までは想定内だった。しかし、一歩踏み込んで、郵政民営化法案に賛成の対立候補を党公認で送り込んでくるとは、造反側も考えていなかったようだ。ここまで強権的な手法で、反対議員を排除しようとする政権与党のあり方に疑問を覚える。 政治の世界の現実は、いずれ社会の精神的なありように影響する。どんな手段を取っても勝てばいい、との風潮は、決して社会にいい感化は与えないだろう。 小泉純一郎首相の政治手法は、どこかにブッシュ米政権の「二分法」を思わせるものがある。郵政民営化法案に反対することは改革に反対することだ、とばかりに、改革か抵抗か、改革か造反か―と二分する論法で、敵を鮮明化する戦法を繰り返してきた。ブッシュ大統領の「米国とともにあるか、テロリストの味方か」との単純化の論法に似ている。 しかも、それを脅しに使うだけでなく、実行してくる。小泉首相は、解散決定後、三十七人の衆院自民党造反前議員の選挙区に対立候補を党公認で立てるよう指示した。そして、第一弾として小池百合子環境相(比例近畿)を、東京10区の反対派小林興起前議員の対立候補に決めた。「そこまでやるのか」と造反組は、戦々恐々状態だという。 反対派リーダーの亀井静香元政調会長(広島6区)には「竹中平蔵郵政改革担当相をぶっつけるらしい」とのうわさが一時、流れた。やはり反対票を投じた熊代昭彦元内閣府副大臣(岡山2区)に対しては、これまで熊代氏を支援してきた萩原誠司岡山市長に、小泉首相から直々に立候補要請があった。相手の懐に手を突っ込むようなやり方だ。 小選挙区制の導入や党の執行部が選挙資金の大半を握る現在の選挙では、派閥の力は低下している。しかも、無所属と党公認では使えるビラやはがきの枚数などに格差がある。小泉流の手法が「公認」の力をあらためてクローズアップした。そして、小泉流二分法は、反対派を「古い自民党」として切って捨てる。 しかし、政権与党であるだけに、小泉首相には党内力学だけでなく、国民の意向も見つめ直してほしい。解散決定を受けて共同通信社が行った全国緊急電話世論調査によると、確かに小泉内閣の支持率は47・3%と七月の調査より4・7ポイント上がった。ただ、見誤ってならないのは、造反についても「理解できる」が52・5%と過半数に達していることだ。さらに反対派を解散権でけん制した手法について「適切だったと思わない」が35・7%で「適切だった」の22・5%を上回っている。 こうした世論を無視して強権的な手法を取ることには、慎重であるべきだろう。現に、反対派を抱える二十六の自民党都道府県連にも戸惑いが広がっている。そのうち十数府県連が、無所属で出馬しても支援する方針を固めている。広島県連は亀井元政調会長の公認をきのう党本部に申請した。郵政民営化法案は数ある重要政策の中の一つである。その成立を図るためだけに、地方の独自性や自立性をつみ取るような統制的な政治力の行使はいただけない。 '05/8/13 中国新聞 社説 より