「志定まれば」
'06/9/27 中国新聞 天風禄より 戦後生まれで初。戦後最年少で、史上五番目の若さ。初代からちょうど九十代目、山口県選出では八人目。閣僚経験は一回、議員歴わずか十三年で頂点―。安倍晋三新首相を表すキャッチフレーズには事欠かない▲「目立たず普通の人だった」。かつての安倍氏を知る旧友らは口をそろえる。一方で頑固な面も。「一度言い出したらなかなか引かない」。拉致問題での対応を見ればうなずける▲父・安倍晋太郎元外相とのきずな、祖父・岸信介元首相への思いはよく知られる。家族を大切にし、友人も大事にする。幹事長時代、選挙遊説の日程を工夫して同窓会に顔を出したこともある。「優しく、彼を嫌う者はいなかった」と、これも友人らの評。家庭教師だった平沢勝栄衆院議員が「優しさが弱点になるかも」と心配するほどだ▲三カ月前。英国へ密航し国造りに尽くした長州藩士を描いた映画「長州ファイブ」の試写会で、安倍氏は「同じ長州につながるものとして、血が騒ぐ」と高揚して感想を述べていた。今、再びその思いをかみしめているに違いない▲若いだけに、力量を不安視する声もある。新憲法制定などタカ派的姿勢に警戒感もある。安倍氏が目指す「美しい国」も、具体的な中身は見えず、未知数の部分が多い▲さまざまな期待と不安の中、安倍丸は出航した。流されず、的確にかじを取ってほしい。安倍氏が尊敬する吉田松陰の言葉にこうある。「志定まれば、気盛んなり」