うば捨て山
'08/4/15 中国新聞 天風禄より 「やさしいネうば捨て山へ手を引いて」―。今月から、七十五歳以上の全員が対象となる後期高齢者医療制度がスタートした。これまでの老人保健に代わる新たな「おきて」だが、お年寄りの戸惑いやため息が、本紙の時事川柳や投書からもうかがえる▲通知書に記された夫の保険料を見て驚いたという広島市の女性(77)。今まで払っていた世帯分よりもはるかに大きい金額に、途方に暮れる。「年金収入しかないのに、どうやって生活すればいいのでしょう」▲きょう、最初の保険料が年金から天引きされる人も多いはずだ。以前からの介護保険料に加え、ダブルパンチになる。一年以上滞納すると、保険証を取り上げるなど、「長寿医療制度」という言い換えとは裏腹の厳しさだ▲若い世代にばかり負担をかけないように、高齢者も一部を負担しようという新制度の趣旨に、文句はつけにくい。その一方で、「お荷物」扱いするような社会の空気を、お年寄りたちは肌で感じ取っているようだ▲長野県に伝わる姨捨(おばすて)山の民話は、こう結ぶ。母を捨てに行った息子は親心の優しさに触れ、こっそり連れ帰る。その後、老母の知恵で国の危機が救われ、殿様も年寄りを捨てるおきてを改める―。民話のように、温かみを取り戻す柔軟さも必要ではないか。