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カテゴリ:新聞・雑誌
'07/10/9 付 中国新聞 天風禄より
秋の日の縁側。あす嫁ぐ娘に、母が幼い日の思い出話を繰り返す。庭先には揺れるコスモス。さだまさしさんの曲、山口百恵さんの歌でヒットした「秋桜」は、日本人の心象風景の一部を映し込んでいるようだ ▲明治時代にイタリアから入ってきた時にはハイカラな花だっただろう。しかし楚々(そそ)として、はかなげなたたずまい。桜を思わせる淡いうす紅の花びら。いつしか秋桜という優しい日本名も得て、この国に土着した ▲ただ誰もがこの花に穏やかさを感じるわけではなさそうだ。「コスモス、無惨(むざん)」と書き記したのは太宰治である。秋についての詩を頼まれた時のために材料を準備しておいた。そのメモの一部だ。「枯野のコスモスに行き逢(あ)うと痛苦を感じます」。敏感すぎる作家の心の震えだろうか ▲娘を北朝鮮に拉致された横田早紀江さんもまた、複雑な気持ちに違いない。めぐみさんが四十三歳になった五日、こう呼び掛けた。「あなたが好きなコスモスのようにしっかり足を地につけて生きているのね」 ▲コスモスははかなげな一方、たくましい面もある。根元は結構太い。台風で倒れても、地面に着いた節から新たな根を出していく。花を支える茎も数日後には、けなげに頭を持ち上げる ▲世界に身構えたような軍事国家でもいつしか開かれた国に変わると信じたい。人権の枯れ野で無惨にじゅうりんされたコスモスに、痛苦を伴った思いを寄せつつ、日本に帰れる日までたくましくあってほしいと切に願う。 写真は 雪とんぼ撮影 ひと押しお願い。 ワンクリックで喜ぶ人がいます! ↓ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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