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今日、広島に戻ると決めていた。
でも昨日の晩から今朝までずっと、 「もう2、3日いればいいじゃない」と誘惑される。 「なんだかんだ言って、いざとなると寂しいんじゃない?」と茶化すと 「ちょっとだけ」と答えた。 好きだの大事だの何のかの、甘くて断定的なことは全然言わない男だから、 この「ちょっとだけ」のひと言を引き出せただけで私は十分だ。 夕方から家庭教師の仕事があるから、と返事をしたら 一週間くらい休んでもいいじゃない、といい加減なことを言う。 予定通り、きちんと来るからこその家庭教師なのよ、と諭す。 じゃないとこのままずるずる居着いてやるわよと脅したら引き下がった。 仕事に行くのをまた見送る。 来月にはまた会えるし、何となく気楽だった。 部屋の窓から下を眺めて、自転車が走り過ぎるのを見届ける。 カレーをタッパーケースに小分けして、冷凍庫に入れる。 アレキサンダーワンの洋服に着替えて、旅鞄を整理する。 宿のお礼とカレーの温め方(タッパーの蓋の小窓は開けてチンするように)を メモに残して、名残惜しみつつ鍵をかけ、建物を出る。 家を出たことを知らせるメールを送る。 タイミングよく来たバスに乗って駅までゆき、 タイミングよく来た中央線で東京駅に向かい、 おせんべいとお菓子を家族用に買って、新幹線のホームに上がる。 首尾よく自由席の富士山側に座り、お弁当とお茶を買う。 するすると走り出したところでまた一報を入れる。 家を出るときと、 新幹線に乗ったときと、 向こうに着いたときにメールしなさいと まるで親がするみたいに指示されていたから。 耳栓をする。 新横浜を出てから、お弁当をゆっくりと平らげる。 少しうとうとしてから本を取り出す。 貸してもらった「蛍の河」は、あっという間に読んでしまった。 持ってきていたガルシンの「あかい花」を読んだあたりで一呼吸。 しかし、日清戦争の短編と、狂人の短編を読むなんて、 この時間には何てミスマッチなんだろう。 ミスマッチなものにでも触れないと、 自分のスイッチを切り替えられそうになかった。 一駅前まで来たところで、喫煙車両に移って一服する。 大瓶のいいちこと、2リットルのペットボトルの水とで 本気の「ひとり飲み」を繰り広げているおじさんを見た。 最寄り駅に着いたら、母が迎えに来てくれていた。 自宅に着いてまた一報を入れ、30分ほどしてから今度は自分の運転で出発。 5ヶ月ぶりに会う恋人と今朝まで一緒に毛布にくるまっていたなんてことは 小学生の生徒には何の関係もないのだ。 けろりとした顔で私は授業をする。 夕飯どき、ほぼ1週間ぶりに家族が揃う。 ちょっとだけほっとしながら、 たまっている翻訳の仕事について考えていた。 そういえば、部屋はきちんと片付けてきたけれど ベッドはぐちゃぐちゃのままにしておいた。 私の愛しく勝手な男よ、秋のセンチメンタルが欲しいなら、 とぐろを巻いた毛布やシーツを見て寂しくなってしまえ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009/09/13 12:33:52 AM
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