REQUIEM
手元に二枚のCDがある。一枚は、この夏の全国大会のCD。もう一枚の中の一曲の話をするね。こないだのオスカーピーターソンのライブ。その時と殆ど同じ曲を収録したライブ版のアルバム。その中に一曲、あたしを泣かせた曲がある。REQUIEMここ数年で幾人もこの世を去ったジャズの巨人たち。年を重ねて生き、この世でジャズを綴り続ける彼が、自分を残して逝った仲間たちに捧げた曲。MCで彼はいつもこう、この曲を紹介する。「この何年かで、私たちはジャズの歴史における、 偉大なる仲間を亡くしました。」そして数名の仲間たちの名をあげた後に一言。「So, I simply call this "REQUIEM"」そして静かに始まるこのレクイエム。ゆっくりと、語りかけるように。静かだけれど弱くはない。少しの力強さは彼の指と時間の重みを、心なしかのリタルダンドは彼の追想を。そして愛に溢れている。あたしは、この曲に泣く。きっと、世を去ったミュージシャンは、私たちにとってはステージの上、向こうの人。だけど彼にとっては、共にジャズを創ってきた、本当に戦友とも言うべき仲間なのだろう。悲しいけれど、あたたかい。晴れたあたたかな日、墓石にそっと花束を乗せるような、レクイエム。あたしもこの曲にいろんな人を思い出す。そして、平和な深い海の底にいる気持ちになる。生まれた時にもうこの世にいなかったミュージシャンは、なんだか歴史の人物に思える。けれど、今こうして生で聞ける高齢のミュージシャンは、どうしてもいなくなってほしくないと思ってしまう。「この人のライブに行ったことがあるんだよ」、そんな話をする日なんて、来て欲しくない。記憶の人、歴史の人になんてならないで。ずっと生きていて欲しい。泣ける。